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日本一乗りたいローカル線「五能線」の現場力

2016年09月12日 公開
2023年05月16日 更新

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

「お荷物」の赤字ローカル線はなぜ生まれ変わったのか?


リゾートしらかみ(写真提供:JR東日本秋田支社)。

「日本一乗りたいローカル線」と呼ばれる路線がある。それが秋田県北部と青森県津軽地方を結ぶJR東日本の「五能線」だ。

人気の「リゾートしらかみ」は観光列車の先駆けと言われ、誕生から20年近く経つにもかかわらず、観光シーズンにはいまだチケットが入手困難なほどの人気だ。

なぜ、過疎化が進む地方にこれほどの人気ローカル線が誕生したのか。五能線の改革に早くから注目し、現地に足しげく通いその秘密を解き明かし、著書『五能線の秘密』にまとめた遠藤功氏にうかがった。

 

「ルール違反」から生まれた驚きのサービスとは?

10年ほど前に初めて訪れて以来、五能線に魅せられてきたという遠藤氏。その魅力はどこにあるのだろうか。

「まずは、なんといっても絶景です。海に山にと変化に富む地形が続き、絶景ポイントがこれでもかというほど連続で現われる。季節によってさまざまな顔を見せるので、何度乗っても飽きることがありません。また、沿線には五所川原の立佞武多(たちねぷた)や不老ふ死温泉など、見どころも豊富です」

中でも人気なのが、快速列車「リゾートしらかみ」。雄大な景色を楽しめるよう窓は大きく、座席はゆったりと配置され、車内での三味線の生演奏や駅にたびたび現われる「なまはげ」などユニークなサービスもある。それでいて、追加料金はたったの520円。入手が困難なのもうなずける。

「そんな五能線ですが、かつては『JR東日本のお荷物』とすら呼ばれる存在でした。沿線は過疎化と高齢化が進み、自然環境も厳しい。しかも、管轄する秋田支社はJR東日本の中で最も売上げ規模が小さい。それが、25年かけて五能線をここまで育て上げてきたのです」

魅力的な路線や観光列車は他にもあるが、遠藤氏がとりわけ五能線に注目するのは、この改革が「現場発」だったからだという。

「その象徴が『サービス徐行』です。これは、沿線の中でもとりわけ景色の良い場所で、あえてゆっくりと列車を走らせるという、乗客に大人気のサービス。今では他社でも行なっているところがありますが、その元祖とも言えるのが五能線です。

私が何よりも驚いたのは、これが、運転士が独断で始めたサービスだったということです。鉄道の世界では時間どおりに、安全に運行することが何よりも求められます。運転士が勝手に徐行するなど、本来ならあり得ないルール違反です。それを、お客様が喜んでくれるならと、現場の判断で始めたというところがすごい。

法規制が強い業界では、どうしても『ルールを守る』ことに重点が置かれ、新しいことをやる機運が起きにくいもの。その典型とも言える鉄道業界で、現場発のこうした素晴らしいサービスが生まれたというのは、奇跡的だと思います」

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改革を成し遂げたのは、クリエイティブなぽっぽや >

著者紹介

遠藤 功(えんどう・いさお)

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

ローランド・ベルガー日本法人会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。経営コンサルタントとして、戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。ローランド・ベルガーワールドワイドのスーパーバイザリーボード(経営監査委員会)アジア初のメンバーに選出された。株式会社良品計画 社外取締役。ヤマハ発動機株式会社 社外監査役。損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社 社外取締役。日新製鋼株式会社 社外取締役。コープさっぽろ有識者理事。『現場力を鍛える』『見える化』(以上、東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)など、ベストセラー著書多数。

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