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トップデザイナーの「柔軟な思考力」の秘密

2016年09月28日 公開
2016年09月29日 更新

佐藤オオキ(デザイナー)

「ビジュアル化」の技術で発想しやすい状態を作る

 ただし、これはまだ「発想」の段階ではないと佐藤氏は話す。

「ビジュアル化することで、発想が出やすい状態にする。いわば、考える手前の作業です。その先の『発想法』は、プロジェクトごとにそれぞれで、偶発的に出てくることもあります。ただ、自分が最も発想しやすい状態を作ることまでは、技術やスキルで可能になると考えています。

 発想そのものの打率を上げることはできなくても、少しでも良い状態で打席を迎えることはできるわけです。ビジュアル化もその技術の一つ。そうして思考を深めていくうちに課題が見えてくるのです」

 最近では、個別のプロダクトを手がけるだけでなく、企業のブランドコンセプト作りから携わる機会も多い佐藤氏。その際も、「ビジュアル化」が企業経営に与える効果を実感している。

「ブランド作りは、概念をいかに具体化できるかという作業です。社長の考えや会社の雰囲気など、そのままだと見えないものを『ビジュアル化』することで、その会社の全員が『うちの会社はこうだったのか』と理解できるようにする。そして、それを形にしていくのがデザイナーの仕事だと思っています。

 ですから、デザインはエンドユーザーに向けた効果だけでなく、社内のインナーブランディングにも大きな影響を与えます。1つの商品やロゴをデザインすることで、会社の空気感がガラリと変わったり、社内の士気が高まったりする。それはすべて、今までぼんやりとしていた課題を『ビジュアル化』した結果、人に伝わりやすくなったからだと思います。

 たとえば、医療でも症状を治療するには、その前段階で『ビジュアル化』が必要だと思います。検査をして情報をスキャニングしたり、データを拾ったりして視覚化しないと、なぜその病気が発症するのかわからないし、解決策も出てこない。やはりどんな問題も、解決するには『ビジュアル化』が欠かせないのではないでしょうか。そう考えると、デザインの力はどの仕事にも役立つように感じます」

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「ビジュアル化」の一歩は「パクる」ことから >

著者紹介

佐藤オオキ(さとう おおき)

デザイナー

1977年、カナダ生まれ。早稲田大学理工学部建築学科首席卒業。同大学大学院修了後、2002年にデザインオフィス「nendo 」設立。東京とミラノを拠点に、建築・インテリア・プロダクト・グラフィックと多岐にわたってデザインを手がける。2006年、ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選出。「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を始めとする世界的なデザイン賞を数々受賞。著書に『問題解決ラボ』(ダイヤモンド社)など多数。

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