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シンガポールで日本企業が「不人気」な理由とは?

2016年10月05日 公開
2023年03月09日 更新

柴田昌治(スコラ・コンサルトプロセスデザイナー代表)

「さばく人」が会社の考える力を失わせる

1990年代のバブル崩壊以降、日本企業は長らく厳しい経営環境にさらされてきました。その中で、まずは目の前の数字を上げることに集中せざるを得なかったのは、致し方ない面もあったかと思います。

ただ、それが日本的組織で働く人たちの思考や行動に与えた影響はあまりにも大きいものでした。こういう組織で経営層が目先の業績ばかりを追いかければ、当然ながら下にいる人たちも、上司の求めにひたすら応えようとするからです。そして、上から与えられた目の前の課題を処理することに長けた人が評価され、出世していったのです。

その結果、かなりの日本企業が「仕事をさばく人」の思考で動くようになりました。

その最も大きな弊害は、「考える力」の衰退です。

間違わないでほしいのですが、これは「どうやるか」を考える力という意味ではありません。「そもそも、この仕事の意味や目的、価値は何か」という根本を問い直す力だと理解してください。

「どうやるか」を考えてさえいれば、とりあえず、目の前の仕事は処理されるので、当面は会社も回っていきます。

しかし、変化の激しい今の時代に、現在のビジネスモデルがいつまでも安泰ということはあり得ません。液晶事業で大成功を収めたシャープがわずか十数年で韓国や台湾の企業に追い落とされたように、あるいは東芝がかつて看板だった家電事業を売却したように、過去にどれほど輝かしい業績を上げたビジネスも、永遠に存続することはないのです。

従来のやり方を転換し、イノベーションを起こさなくては、会社が生き残れなくなる時が必ずやってきます。

その時、組織全体の「考える力」が弱っていたら、新しい価値を生み出すことなどできるはずがありません。与えられた仕事をさばくことしかやってこなかった人が、いきなりゼロから何かを創出しろと言われても難しいのは当たり前です。

 

表向きは取り繕えても、まだまだ日本企業は「ガラパゴス」

もう一つ、「さばく人」が増えることによって加速する弊害があります。

それは、グローバル化の遅れです。

私は2009年にシンガポールに会社を設立し、海外でビジネスを展開する日本企業を支援してきました。

その過程で痛感したのは、日本の会社がいかにガラパゴス化しているかということです。

グローバル経営を実現するには、企業統治に関する考え方や組織の価値基準を、国内標準から世界標準へと転換する必要があります。そのため多くの日本企業も、欧米企業にならって制度や仕組みの改革を進めてきました。

しかし問題は、組織の仕事の進め方や社内常識が変わっていないことです。表向きの形は取り繕っても、本当の意味でのグローバル対応はほとんど進んでいない会社のほうが多い、と言ってもいいでしょう。

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著者紹介

柴田昌治(しばた・まさはる)

スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
1986年に、日本企業の風土・体質改革を支援するためスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。社員が主体的に人と協力し合っていきいきと働ける会社をめざし、社員を主役にする「スポンサーシップ経営」を提唱、支援している。2009年にはシンガポールに会社を設立。
著書に、『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)などがある。

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