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モールスキンのメモからアイデアが生まれる

2017年02月02日 公開
2017年02月02日 更新

嶋 浩一郎(博報堂ケトル社長)

「バックナンバー」を見返す理由とは?

個別の事象としては一見無関係な「ネタA」と「ネタB」を「交配させる」ことで発想が生まれる、と嶋氏は語る。

「たとえば、福岡県にあるラーメン店『つどい』は、有名なインスタントラーメンの味を普通の食材で完璧に再現するメニューが人気、というネタA。続いて、琳派の画家・鈴木其一は絵を縁取る表具部分にも絵を描く『描表装』を多用した、というネタB。両者はかけ離れているように見えますが、作り手の遊び心や、『一度で2回面白い』ところに同一性を感じます。そこから、『新しい企画でこの感じを出せないか?』と言う風に、イメージを喚起していけます」

交配させるネタどうしは、ジャンルが遠ければ遠いほど、奇想天外で面白いアイデアになるという。

「ですから私は、ネタをジャンルごとに分類して書くことはしません。仕入れた順に、ただ羅列するだけです。結果、物理学の法則の次にタレントのゴシップ、その次には歴史のこぼれ話が書いてある、という状態になります。それらのバラバラな情報を見渡していると、予想外な形で発想が湧いてくる。こうした偶発性が、新奇なアイデアを生むきっかけになるのです」

現在進行中のノートだけではなく、バックナンバーにもしばしば目を通す。

「出張先に数冊持って行ったり、枕元に置いて、寝る前にパラパラとめくったり。記憶から抜け落ちていた古いネタと、仕入れたばかりのネタが掛け合わされて『化学反応』が起こることもよくあります」

 

「アイデアを出すこと」を最初から目的にしない

「手軽にパラパラ見られる」という点は、手書きのノートならではのメリットだ。

「パソコンやスマートフォンアプリにアイデアのネタをストックする人が最近増えていますね。その場合、企画を考える際はアイデアの出そうなテーマや語句を毎回検索することになるでしょう。するとそこで見つかるのはその目的物、つまり『望んだ範囲内』の情報となります。
対して、手書きのノートをざっとめくると、目的以外の情報がどんどん目に入ってきます。望んでいた以上に、発想を広げることができるのです。検索性の高さはデジタルのほうが上ですが、一覧性とそこから生まれる偶発性は、アナログならではの強みですね」

日常生活で出会う発見を、ジャンルを混在させたまま羅列するだけのシンプルなノートは、こうして無敵のアウトプットツールとなる。

「ただし注意したいのは『アイデアを出すために書こう』と思わないこと。そうすると、『目的に合わない』という勝手な判断で、情報を選別してしまうからです。私がこのノートに書いている情報は、ほとんどが『ムダ知識』。役立つかどうかわからないものをひたすら面白がって集めるからこそ、その膨大な集積からブレイクが起こるのです。結果を求めず、まずは楽しむこと。これが一番です」

 

■二軍ノート



会話の中で出てきた言葉やテレビの情報、美術展や博物館で得た知識などはまずここへ記入。積極的に人と接し、収集の範囲を広げることが大切だ。「本来の趣味や興味の範囲外の場所にも、意識的に足を運びます。『地下アイドルのライブ』などは、未知の情報の宝庫ですね」

 

■本や雑誌



新しい知識や発見のあった箇所には、その行の真上に付箋を貼る。愛用している付箋は、3Mの「フラッグポインター」。貼りつける部分は無色透明なので、文字が隠れることがなく、そのままコピーをとることも可能。細いので行の幅とぴったり合う。ケースもコンパクトで、どこでも持ち歩ける。

 

■一軍ノート



一軍ノートは、集めたネタの「放牧場」。二軍ノートと、本・雑誌につけた付箋を定期的にチェックして書き写す。同時に、その情報についてネット検索し、知り得た「おまけ情報」も書き添えておくとなお良い。ただし、本格的な深掘りは禁物。負担にならない程度に、集めた情報をシンプルに書き記すのがコツだ。

 



嶋氏がこれまでに書き溜めたノート数年分。取材の場に持参してくれた。どれもモールスキンで、色や模様などがあるものもあるが、サイズは統一されている

《『THE21』2017年1月号より》

著者紹介

嶋 浩一郎(しま・こういちろう)

博報堂ケトル代表取締役社長

1968年生まれ。93年、〔株〕博報堂入社。企業のPR活動に携わり、2002~04年には雑誌『広告』の編集長を務める。04年、「本屋大賞」の立ち上げに参画。06年、既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する㈱博報堂ケトルを設立。『アイデアはあさっての方向からやってくる』(日経BP社)など、著書多数。

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