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日本人の元気を失わせる「過剰清潔社会」の問題とは?

2017年02月07日 公開

藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授)

乳酸菌には「相性」がある

生後1年で腸内環境が決まるとはいえ、諦めることはない。その後、なるべく多くの菌を取り込むことで腸内環境を整えることは可能だからだ。

「腸内細菌の勢力図はおよそ2週間で塗り替えられます。たとえば乳酸菌は腸内環境の改善に役立ちますが、続けて2週間摂り続けることが大事です。また、乳酸菌にはいろいろな種類があり、ヨーグルトなどでも製造元や商品によって乳酸菌の種類が違っています。

乳酸菌には相性があり、どの乳酸菌が合うかは人それぞれです。たとえば私は韓国出身の女中さんに育てられたため、キムチなどの植物性の乳酸菌と相性がいいようです。同様におばあちゃん子だった人は、おばあちゃんのぬか漬けの乳酸菌が合うかもしれません。いろいろと試してみることが大事です。

同じ乳酸菌を2週間摂り続け、それが自分に合っているなら、必ずなんらかの変化があるはず。たとえば肌がツヤツヤして、便通が改善される、などです」 

細菌は身体の内側から健康を支えると同時に、身体の外側でガードする役割も果たす。

「たとえばトイレにうがい薬が常備されているところがありますよね。ただ、殺菌効果の強いうがい薬は、むしろ風邪をひきやすくする恐れがあります。私たちの皮膚や粘膜には『常在菌』がいて、外からの刺激から身体を守りますが、強いうがい薬はのどの粘膜の常在菌を取り払うため、感染源が簡単に体内に入り込んでしまうのです」

同様に皮膚にも常在菌がいて、肌を酸性にして外部の菌から守ってくれているという。ただ、藤田氏は、現代人は身体を「洗いすぎ」だと指摘する。

「たとえば毎日の入浴で殺菌作用の強いせっけんを使うと、常在菌が溶けて流れてしまいます。すると角質がバラバラになり、水分が抜けてカサカサの肌になります。その角質のすき間に花粉やホコリなどが入り込むと、アレルギーやアトピーを発症する原因になります。

温水洗浄便座も同様。肛門を洗いすぎると、肛門の常在菌がいなくなり、かえって炎症を起こしやすくなる。すると、さらに洗わずにいられなくなり、どんどん炎症がひどくなる……そんな悪循環が生まれてしまっているのです」

 

腸が喜ぶのは「我慢しない」生き方

現代の日本人の腸内細菌は、戦前の3分の1しかないという。

「理由は、食物繊維の摂取量が減少したこと、活性酸素を発生させる環境が増えたこと、加えてストレス社会です。
食物繊維は大いに摂るべきでしょう。食事前に千切りのキャベツを食べるようにするだけでも効果はあります。また、活性酸素発生には食品添加物や水道水の塩素、電磁波などさまざまな要因があり、現代人はなかなか避けようがないのですが、対策として色のついた野菜を多く摂ることをお勧めします」

ただ、中でも最も影響が強いのが「ストレス」だという。

「現代人は『我慢』をしすぎなのではないでしょうか。たとえばお酒やたばこが好きで、それで自分のストレスが解消されていると思うなら、別に無理にやめる必要はありません。定年をきっかけに禁煙をすると宣言した人のほうが病気になり、しなかった人のほうが元気だったような例もあります。これはやはり、ストレスとの兼ね合いでしょう。また、お酒に関しては、お酒を飲める体質の人なら、むしろ毎日少し飲んだほうがいいという研究結果もあります。

ストレスは腸内環境の悪化の非常に大きな要因です。それを避けるためには何より『我慢しない』こと。嫌な人とはつきあわない、残業はしない、毎日笑って過ごす。これがこのストレスの多い社会で元気に生きる秘訣だと思います」

(取材・構成 西澤まどか、写真撮影 まるやゆういち)
(『THE21』2017年2月号より)

著者紹介

藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)

東京医科歯科大学名誉教授

1939 年、中国東北部(旧満州)生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院修了。医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学教授を経て、現在は同大学名誉教授。専門は寄生虫学と熱帯医学、感染免疫学。1983 年に寄生虫体内のアレルゲン発見で小泉賞を、2000 年にはヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会社会文化功労賞および国際文化栄誉賞を受賞。著書多数。

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