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野口悠紀雄の「ブロックチェーン」講義 第2回「2つのブロックチェーン」

2017年02月13日 公開
2023年05月16日 更新

野口悠紀雄(経済学者)

シェアリングエコノミーのカギを握る技術とは?

野口 ブロックチェーンのビジネスへの応用として、もう一つ重要だと思われるのが「シェアリングエコノミー」の分野です。

その典型的な例が、Slock.itというドイツのスタートアップ企業です。この会社が行なっているのは、「スマートロック(電子キー)」の開発です。

宿泊場所の提供者(ホスト)と宿泊場所を探している旅行者(ゲスト)をつなぐマッチングサービスのエアビーアンドビー(Airbnb)は、すでに全世界で多くの人に使われています。ただ、ここで問題になるのが、鍵の受け渡しです。自宅に近い部屋を貸す場合はいいのですが、遠く離れた部屋や別荘を貸す場合はどうするか。

ここで必要なのが「スマートロック」です。ゲストがホストからの入金を確認したら、ホストはゲストのスマートフォンに情報を送り、それにより部屋の鍵が開く。情報が鍵になるわけです。

他にも、カーシェアリングへの活用や、Uberのような仕組みを使ってスマートフォンで自動運転のタクシーを呼び乗り込む際の鍵としても使うことが可能でしょう。

スマートロック自体は、従来のインターネットの仕組みでも実現可能です。ただし、鍵という性質上、セキュリティは重要な問題であり、どうしてもコストが高くなる。Slock.itはブロックチェーンを活用することで、スマートロックのコストを大幅に下げようとしているのです。

――確かに、不特定多数の人が同じものを共有するシェアリングエコノミーの世界においては、まさに鍵を握る技術です。

野口 Slock.itは、まだ実際に事業を稼働させているわけではなく、試作品のようなものがある段階です。それでも昨年の初めに、Slock.itの仕組みを使うために必要なコインを今から売り出すという、IPO(Initial Public Offering)ならぬ「ICO」(Initial Coin Offering)を行ないました。それにより集まった資金はなんと1.6億ドル。仕組みを考えただけで、160億円が集まったのです。

――資金集めの方法からして、今までとは違う「ブロックチェーン的」なものが感じられます。

野口 もう一つ、とても重要なことがあります。ブロックチェーンで仕組みを動かしているということは、仮にSlock.itのメンバーが全員死んでしまったとしても、システム自体は動き続けるということです。つまり、経営の必要がない。それが、ブロックチェーンによって現実になりはじめている新しい組織の形、「DAO」です。

――ブロックチェーンによって「組織の在り方も変わる」とおっしゃっていたのが、まさにこれに当たるのですね。

(次回に続く)

(取材・構成:川端隆人、写真撮影:長谷川博一)

著者紹介

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授

1940年、東京都生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イェール大学Ph.D(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年より現職。著書に、『「超」整理法』(中公新書)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)など、ベストセラー多数。

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