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「即断即決」社長の瞬時に伝わる話し方

2017年04月12日 公開
2023年01月30日 更新

大山健太郎(アイリスオーヤマ社長)

 

話すポイントは付箋を使って整理

朝礼で話す内容は、車で会社に向かう30分で考える。大判の付箋に書きながら考えるのが大山氏流だ。話の焦点を明確にするのに、正方形の付箋くらいの大きさがぴったりだという。

「付箋に書ける量は決まっていて、あれもこれも書けません。自然と焦点が絞られてくるので、この大きさが丁度いいんです。
朝礼で話すテーマは二つと言いましたが、それぞれのテーマについて、ポイントやキーワードを三つほど書き出します。頭で考えていると思いが優先しがちですが、書くことによって思考が整理されます。書いたものを眺めてみて、この順番では聞く人にわかりにくいから順番を入れ替えようとか、この要素が抜けているから加えようとか、聞く人の視点に立って2、3回は編集します」

付箋を使って思考を整理する利点はもう一つある。話すべきポイントが絞られるため、紙を見なくても話すことができるのだ。
「間違ってはいけない数字などは資料を参照することもありますが、私は基本的にノーペーパーで話します。とくに訓練したわけではありません。朝礼でこのような話し方を繰り返していたら、自然と身についたのです。
 伝わる話し方を習得したいなら、できるだけ人前で、ノーペーパーで話す経験を積むとよいと思います。ノーペーパーで話そうとすれば、多くのことは話せないので、テーマやポイントを絞ることになります。それが結果的に伝わりやすさにつながります。はじめは誰もが失敗しますが、失敗してもいいんです。間違えたら後で言い替えればいいわけですから」

 

重要なことは3回は繰り返すべき

朝礼で大山社長の話を聞くのは、ベテラン社員から新入社員、さらにはパートの人たちまで何千人にものぼる。「ベテラン社員だけが理解できて、新入社員やパートの人たちに理解できない話は、しないほうがいい」と大山氏。誰にでもわかる話し方のコツは何だろうか。

「平易な言葉を使うことです。私は横文字も使いません。難しい話を簡単にかみ砕くのが、経営者の話し方です。
また、重要なことは繰り返します。人は聞いているようで聞いていないものです。一度話せば伝わるだろうと思うのは間違いです。15分の中でも、最初に言って、真ん中で繰り返して、最後にもう一度。同じフレーズは使いませんが、キーワードは3回くらい繰り返さないと、伝わり切らないと思います」

朝礼で話した内容は、翌日、テキスト化されて全員に配信される。話を聞いたときは「なるほど」と思っても、次のテーマに移った瞬間、前の話を忘れてしまうのが人間だからだ。「翌日、文章で読み返したときに、はじめて理解できることもある」と大山氏。確実に「伝わる」までしつこく伝え続ける、その徹底したこだわりには理由があった。

「経営や組織のマネジメントで大事なことは、情報の共有です。重要事項は経営陣だけが知っていて、社員には知らせないという会社は多いようですが、それでは組織は強くなれません。野球にしても、監督と選手が目標を共有して練習に取り組むからチームが強くなります。会社も同じで、社内ができるだけ目線を合わせられるよう、情報共有が不可欠です。重要な内容は繰り返すだけでなく、テキストでも伝える。それくらいのしつこさが必要なのです」

 

「なぜ?」を突きつめて話の引き出しを増やす

大山氏には、社外からも講演の依頼がひっきりなしに届く。学生や一般市民、経営者に向けて話す場合など、聞き手の理解に合わせて言葉を選ぶだけでなく、具体的な事例を盛り込んで聞く人に「なるほど」と思わせる。その辺も人気の秘密のようだ。

「具体的な事例を話すと、みなさん引き込まれますね。商品の品質や機能、専門的な技術について話しても誰も興味を持ちませんが、なぜ我々がこのような商品を作ったのか、というストーリーがあると興味を持ってもらえます。
たとえば、当社はコメを2kgや5kgではなく、3合単位の小さい個包装で販売しています。その話の前段として、『なぜコメはkg単位で売っているでしょう? スーパーでkg単位で売られているのは、肉とコメだけ。サンマは1尾いくら、きゅうりは1本いくらですよね』と言うと、あ、と気づくわけです。続けて『kgで売るのは、農家にとって便利だからです。でも、消費者にとってはどうでしょう?2kgや5kgで買うと、保管している間にコメが古くなっていきますよね。だから消費者離れが起きてしまったのではないですか』。こういう身近な話をすると、皆さん、なるほどと思ってくれます」

こうした引き出しをたくさん持っているから、話が面白くなる。1時間でも2時間でも、ノーペーパーで話ができるのだと大山氏は言う。ただし、ここで言う「引き出し」は、知識の引き出しではない。日頃の生活で疑問を持ち、自分で調べたり体験したりして獲得した「引き出し」のことである。

「本を読んだり勉強したりしたことは、そのときは覚えていても、半年もすれば忘れてしまいます。それよりも、『なぜ?』『どうして?』と疑問に思ったことを自分なりに考えて、突きつめていくほうが深く残ります。恋人の電話番号はすぐに覚えるけれど、会社の電話番号はなかなか覚えられないでしょう?それと同じで、日頃の興味関心が引き出しを増やしてくれます。
また、自分が疑問に思うことは、聞き手も興味を持っていることです。好奇心や経験から生まれた言葉には深みも生まれます。論理立てて相手に伝えられるだけでなく、相手の心に響く話し方になるはずです」

 

《『THE21』2017年4月号より》

著者紹介

大山健太郎(おおやま・けんたろう)

アイリスオーヤマ〔株〕代表取締役社長/アイリスグループ会長

1945年、大阪府生まれ。64年、大阪府立布施高校卒業。同年、父の急死により家業である大山ブロー工業所代表に就任。71年、同工業所の法人化に伴い大山ブロー工業㈱代表取締役となる。91年、アイリスオーヤマ㈱に社名変更。現在、同社代表取締役社長、アイリスグループ会長を務める。

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