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無駄な動きをしない太陽の子(マリ)

2017年04月06日 公開
2017年08月10日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(20)石澤義裕(デザイナー)

豊洲が見習うべき「ガウディ風市場」とは?

町角で見かける唯一のゲーム。木彫りのプレーヤーには、メッシとかロナウドとか名付けてました。

後発開発途上国にランク付けされる、最貧国のマリ。

徹底的に無駄を排除した……、というか無駄にたどり着けていないミニマム感があります。

ぜひ東京都に見ていただきたいものを発見しました。

市場です。

製材すら使っていない、徹底したコスト削減。

曲がりくねった長い枝をその場しのぎに組み合わせて柱と梁にし、壁はなく、屋根は茅葺。足りなければゴミ。

水平垂直、直線や直角、精度も練度も見当たらぬ伝統的な職人芸。

ガウディをはるかに超えた奇怪な仕上がりですが、取り壊しや移動の際、ほとんど費用がかからないことでしょう。

お粗末という言葉では片付けられない、箱物行政の見本ともいうべき掘っ建て長屋なのです。

 

下手に動かず、忖度せずが「マリの働き方」

ここで、女性たちが働きます。

年齢層ごとに商売への取り組み方が違って見えるのは、現金に対する渇望度です。

年頃の娘さんは親のスネをかじっているのか、労働意欲ゼロ。

笑顔のひとつもふりまかず、売り込みもせず、逆にボクらを値踏みします。

乳飲み子を抱えたお母さんは、製造から販売までをひとりでこなすマルチ兼業主婦。

左の乳を赤ちゃんに吸わせ、右手で魚を揚げながら、熱心に呼び込みます。

達観した眼差しでボクらの一挙手一投足を眺めているのは、枯れ枝のように痩せたおばあちゃん。

彼女の足元には商品はないので、もうお金は必要ないようです。

 

軒先に羊の生肉をぶら下げているのは、焼肉屋。

肉を焼くカマドから1メートル以上も薪がはみ出ていて驚かされますが、無駄なことはしないマリなので、薪割りなんかするわけないのです。

それより、肉を包む紙にのけぞりました。

道端に落ちている紙を拾ってきて、引きちぎっています。

「その紙使うの?」って指さしたら、「汚れてた?」って顔をして、心から面倒臭そうに2度3度紙を叩きます。

シャレにならないほど白い粉が舞い散りましたが、一向に気にする様子もなく肉を包みます。

下手に考えず、無駄に動かず、忖度せず。

足るを知るわりに、なかなか富まないマリです。


マリは、薪文化です。

著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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