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ムツゴロウ流「気にしない」生き方・働き方

2017年04月24日 公開
2023年09月08日 更新

畑 正憲(作家)

「一つの正義」を押しつける人が多すぎる

だが、今の日本はむしろ、細かいことを気にしすぎる風潮があるのではないかと、畑氏は警鐘を鳴らす。

「ささいなことで騒いだり、菌を必要以上に気にしたり……。私の家は医師で、自分も一度は医学部を目指していましたから、近代医学を否定しているわけではありません。でも、私はよほどのことがない限り、病院には行きません。

また、最近は『一つの正義』といいますか、自分の考えを一方的に押しつけようという人が目立つように思います。その正義を自分の中にしまっておくならいいのですが、『俺が信じていることをあいつはやっていない、だからおかしい』と考える人が増えていますよね。私はそれを『民主主義の害毒』と呼んでいます。

私は愛煙家なのですが、最近のタバコに関する規制に、そうした風潮を感じますね。受動喫煙の害はまだ科学的に証明されていないにもかかわらず、一方的なバッシングに走る。

たとえば以前、あるテレビ番組でタバコの身体への影響を調べる実験がありました。10本のタバコにまとめて火をつけ、ウサギの鼻先にその煙を突きつけて、心拍数が上がった、などとやっていたのですが、別にタバコでなくとも、ただの紙の束を燃やした煙でも、心拍数は上がります。そんな科学的とは言い難い実験を医師がやっているのですから、あきれてしまいました。

それでもタバコの煙が気になるというのなら、車の排ガスはどうなんだ、という話になります。もう家から一歩も出られませんよ」

 

全員一律の規制がむしろひずみを生む

最近、話題になっている「長時間労働」の問題も、すべてを一律に規制しようとする風潮に危うさを感じるという。

「最近は『同一労働・同一賃金』とか、夜遅くまで働かせてはならないといった議論が盛んです。でも、それで社会が成り立っていくでしょうか。たとえば作家が朝8時に起きて、夕方5時には筆をおかなくてはならないとなったら、いい作品なんて生まれるわけがありません。

同一労働・同一賃金などという考え方は、チャップリンの『モダン・タイムス』の時代の労働者の話です。今は働く人もいろいろな考え方を持っているし、一人ひとり環境も能力もやる気も違う。にもかかわらず、一律に残業をするな、という規制には違和感を覚えます。もちろん、長時間残業で苦しんでいる人には対処しなくてはなりませんが、体力もあり、自分からやりたくて長時間働いている人を否定するのはどうでしょうか。

私は学校を出たあと、記録映画を撮る仕事についたのですが、そこで『接写での微速度撮影』というものを始めました。たとえば、カエルの卵を近くで撮影し、それが徐々に分裂していって、オタマジャクシになるまでを映像に収めるわけです。卵が分裂し始めてオタマジャクシになるまでは約21日間。つまりその間、ずっと撮影を続けなくてはならない。

あるとき、どこから聞きつけたのか、役所の人が『こんな働かせ方はけしからん』と会社を指導しにきたことがありました。私はその場に乗り込んでいき、『これができるのは自分しかいない。好きでやっているのになぜダメなのか』と啖呵を切ったほどです。

結局その後、タイムカードを押さないことで目をつけられないようにしようという話になったのですが、やはり、つまらない規制をするから歪みが出てくるのだと思います」

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著者紹介

畑 正憲(はた・まさのり)

作家

1935年、福岡市生まれ。東京大学大学院で生物を研究。会社員を経て著作活動を始め、「ムツゴロウさん」の愛称で親しまれる。77年に菊池寛賞、2011年に日本動物学会動物教育賞を受賞。

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