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校閲のプロが教える、「マジ書けない!」人のための文章の書き方

2017年11月21日 公開
2023年03月23日 更新

前田安正(朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長)

「一番言いたいこと」を最初にズバッと言い切れ!

この話をすると、「何が『骨格』なのかよくわからない」と言われることがあります。でも、難しく考えることはありません。「自分が一番言いたいこと」を、最初に書けばいいだけです。

企画書なら、冒頭で「私はこれがやりたい」と言い切ります。「私は東京駅に観覧車を作ります」と骨格を書き、「なぜなら東京駅には娯楽が少ないからです」「東京駅の一日当たりの利用者はこの五年間で約六万人も増加し、 憩いの場が求められています」といった肉は、あとで付け足せばいいのです。これで、企画した人の思いが相手にはっきり伝わる文章になります。

ところが多くの人は、まず前提から入ります。「社会的背景」「商品開発の意図」「消費者の動向」といった前置きが延々と続き、読み手が疲れた頃に、ようやく「私は東京駅に観覧車を作ります」という一文に辿り着く。これでは書き手の熱意は伝わらないし、アイデアのインパクトも薄れてしまいます。

たとえば、女性にプロポーズする言葉として、「僕は年収が高いし、家も購入済みだし、三男で親の面倒は見なくていいから、結婚してください」とは言わないはず。まずは「あなたが好きです。結婚してください」と伝えるでしょう。それが、「一番言いたいこと」だからです。ビジネス文書でも、それは同じ。ムダな前置きは一切不要です。

 

「思い」がないと、読み手の共感を得られない

とくに今は、ビジネスの企画や提案でも、「自分の思い」を伝えることが重要になっています。

「高齢者が暮らしやすい世の中にしたい」

「子供たちの未来のために、環境に優しい社会を作りたい」

最初にこうした思いを伝えたうえで、「だから私たちは、こんな商品を作りました」と説明を付け加える。これがプレゼンの基本になりつつあります。

 ひと昔前なら、まずは商品の性能やスペックをアピールすることが最優先でした。つまり企画書でも、最初に来るのは「何を作るのか(What)」でよかったのです。その後で「どうやって作るのか(How)」を書き、最後に「なぜ作るのか(Why)」を付け足せば、企画を通すことができました。

しかし現在は、性能の良さを伝えても、よほど他社との差が大きくない限り、消費者には響きません。消費者が買いたいと思うのは、「なぜ私たちの会社はこの商品を作るのか」という「Why」に共感した時です。

「Why」に共感した人は、その会社のファンになります。そして今の時代にビジネスで勝るのは、ファンを獲得した企業です。新型のiPhoneが発売されるたび、店舗前に長蛇の列ができるのは、Appleのファンがそれだけ多いということ。前の機種とスペックやデザインがほとんど変わらなくても買ってくれるのは、モノそのものではなく、そこに込められた思想に共感しているからです。

 

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「仮説」を立てたら「Why」で掘り下げる >

著者紹介

前田安正(まえだ・やすまさ)

〔株〕朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長/未来交創ビジョンクリエイター

早稲田大学卒業後、朝日新聞社に入社。名古屋本社編集センター長補佐、大阪本社校閲マネジャー、用語幹事、東京本社校閲センター長、編集担当補佐兼経営企画担当補佐などを歴任。国語問題、漢字幹事についての特集や連載、コラムを担当。朝日カルチャーセンターのエッセイ教室や早稲田大学生協主催の就職支援講座にも出講。「文章の直し方」など、企業の広報研修も多数手がける。著書に、『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)などがある。

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