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神田昌典が「本棚に残した」24冊とは?

2017年09月29日 公開
2023年07月03日 更新

神田昌典(経営・マーケティングコンサルタント)

7~9 未来の日本・世界を読み解く本

『Generations: The History of America's Future, 1584 to 2069』(Neil Howe、William Strauss)
『情報と秩序』(セザー・ ヒダルゴ)
『文明崩壊』(ジャレド・ダイアモンド)

よく「歴史は繰り返す」と言われますが、実際にどのようなサイクルで歴史が循環するかを知れば、不確実な時代に先を読む大きなヒントになります。その一つが前述した「Sカーブ」ですが、本書Generations: The History of America's Future, 1584 to 2069もまた、不確実な時代に先を読む視点を与えてくれる1冊です。

ピューリタン、すなわち17世紀にアメリカ大陸に上陸した人々について、その後16世代にわたって詳細な分析を行なった結果、4世代ごとに同じようなサイクルが繰り返され、それが循環することで歴史が成り立ってきたということが明かされます。あのアル・ゴアが読んで感動し、自費で議員全員に配ったという一冊でもあります。

より大きな視点で未来予測を可能としてくれるのが『情報と秩序』です。「情報」という観点ですべてを説明する画期的な一冊です。

著者のヒダルゴは、太陽がフレアを出し続けるがごとく、地球は情報を生み出し続ける星だと説きます。たとえば、人間は木と紐を組み合わせて弓矢を発明する。これは既存のものとものが組み合わさり、新たな情報が生まれたことを意味する。さらに人類は蒸気機関やパソコンなど、どんどん新たなものを生み出し続けてきましたが、これもまた、地球が情報を生み出し続けるプロセスの一つ。彼によれば経済成長もまた、情報成長のひとつの表われにほかならないのです。

誰も情報の拡大を止めることはできない、と考えたとき、気になることがあります。このまま情報が拡大していくと、いずれネックとなるのは「人間」だということ。増え続ける情報に人間の処理速度が追い付かなく日がいずれやってくることが予想できるのです。時代が向かう先を占う意味でも重要な一冊だと思います。

では、このような変化の激しい時代に日本は生き残ることができるのか。そんな危機感を抱かせる一冊が『文明崩壊』です。

著者は、『銃・鉄・病原菌』などのベストセラーで知られる生物学者のジャレド・ダイアモンド。過去1万年近くに及ぶ全世界の文明を分析し、その崩壊の原因を探った結果、生き残った文明と崩壊した文明の違いが見えてきた。その分水嶺となったのは病原菌でも戦争でもなく、時代の変わり目において旧来の価値観を手放せたかどうかだった……。旧来の価値観に囚われて、新しい価値観を作り上げられなかった社会は崩壊するという現実をまざまざと突き付けられる一冊です。

今の日本もまさに、時代の変わり目にあります。日本は旧来の価値観を手放すことができるかが問われています。

 

1013 誰もが知る名作

『モモ』(ミヒャエル・エンデ)
『かもめのジョナサン』(リチャード・バック)
『天平の甍』(井上 靖)
『善の研究』(西田幾多郎)

ここからは、誰もが知る名作でありつつ、今でも本質的な気づきを与えてくれる書籍を。まずはご存じ、ミヒャエル・エンデの代表作『モモ』。「時間どろぼう」とちょっと変わった女の子「モモ」の間で繰り広げられる不思議な物語ですが、ご存じのとおりそこには資本主義・管理社会に対する数多くの問題提起や警鐘が含まれています。今読んでも色あせない優れた童話であり、寓話です。そして、本書で触れられている貨幣中心社会への本質的な矛盾は、今でも解決されていないと感じます。

『かもめのジョナサン』は、群れから追放され、自分自身の限界を突破しようと飛び続けたカモメ・ジョナサンの物語。これはまさに、前述の「英雄の旅」(ヒーローズ・ジャーニー)そのもの。非常に短い短編ですが、そのエッセンスが余すところなく凝縮された見事な作品です。

井上靖の名作『天平の甍』は、奈良時代、請われて中国から日本を目指した鑑真和上が、幾多の苦難を経て日本にたどりつくまでを描いた物語です。鑑真和上の不屈の精神もさることながら、私が注目したいのは、当時の日本が思いのほかオープンで多民族だったという事実です。

鑑真和上のみならず、奈良時代の日本には数多くの外国人、しかも世界最先端の知識を持った人々が集っていました。当時の中国はまさに世界中から人々が集まる多民族国家で、インド人や西域のソグド人などさまざまな人々が活躍していました。奈良時代の日本人は、そんな国際的頭脳集団を丸ごと国に移植しようとしたわけで、鑑真の来日もまた、その文脈でとらえられるわけです。

つまり、奈良時代の日本は思った以上にコスモポリタンだった。今の日本は、そうしたベースの上に成り立っている。日本の国際化を考えるに当たり、考えさせられる一冊です。

『善の研究』は、日本を代表する哲学者、西田幾多郎の代表作。1911年に刊行されて以来、時代の変わり目になるたびに求められてきた本です。

ただ、正直、あまりに難解で、一字一句をしっかり理解しようとすると相当に困難な一冊でもあります。ただ、面白いのがこの本を読書会――つまり、複数の人で集まって一緒に読むことで、内容がスッとわかるのです。

難解な本こそ読書会で、という好例として挙げておきたいと思います。

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14 ~ 16  名経営者の視点を追体験できる本 >

著者紹介

神田昌典(かんだ・まさのり)

経営・マーケティングコンサルタント、作家

上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士(MA)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済局に勤務。その後、米国家電メーカー日本代表を経て経営コンサルタントとして独立。多数の成功企業やベストセラー作家を育成し、総合ビジネス誌では「日本のトップ
マーケター」に選出。2012年、大手ネット書店の年間ビジネス書売上ランキング第1位。ビジネス分野のみならず、教育界でも精力的な活動を行っている。
主な著書に『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)、『ストーリー思考』(ダイヤモンド社)、『成功者の告白』(講談社)、『非常識な成功法則』(フォレスト出版)など多数。
アルマ・クリエイション株式会社代表取締役。一般社団法人Read For Action代表理事。

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