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中国人に勝ちたいなら「稟議」を廃止せよ

2018年03月08日 公開
2023年03月23日 更新

白井 良(ソーシャルマン代表取締役)

ひたすら内向きな「稟議」というシステム

そもそも、稟議とは、「下々が、えらい方々のご意向をおうかがいする」という意味だそうです。小学館デジタル大辞泉によれば、「会社・官庁などで、会議を開催する手数を省くため、係の者が案を作成して関係者に回し、承認を求めること」とあります。役所では起案書と言うそうです。下の者が企画を考案して、関係するすべての人々のハンコをもらいながら上げていく。上層部の承認、決裁をとるという、お役所の仕事から発祥した日本独特のシステムなのです。しかも、これは社内の作業です。

これをやりながら、スピード最優先、即断即決の中国企業と向き合うことに、そもそも無理があります。いや、ハッキリ言って、不可能です。

稟議という仕組みは、スピードを遅くするばかりではありません。これは物事を決めて実践していくにあたり、能率の大幅な低下を招きます。さらに、ハンコの数だけ責任が分散するので、リーダーシップが阻害されます。何人もの関係者がハンコを押した企画だから、それだけ多くの人々が集団で責任をとってくれるのかというと、そうではありません。結局、責任をとるのは起案者本人ですよね。あるいは、一番偉い人が取るべきなのでしょうが、日本企業では一番上の人が、「よっしゃ!俺に任せろ」と責任をとってくれるという話は、なかなか聞いたことがありません。

 

「持ち帰り」をあざ笑う中国人たち

「いったん、社に持ち帰らせてください」「社内稟議を通すのに、しばらくお時間頂戴します」「いま、社内稟議中なのですが、上の者が一人出張中でして」。これ、中国人が一番いやがるやつです。そもそも中国人は、決められない人々だけで商談に行かせるということをしません。決められないなら、お引き取り下さいというのが、中国のビジネスです。これは、アメリカも同じだと思います。

まして、稟議に時間がかかるというのはお家の事情なので、先方様にとっては、知ったことではないですよね。

中国人が1時間かけて全力でプレゼンします。ビジネスの具体的な条件なども出して、「さあ、どうですか?」と決断を迫ります。日本企業からの担当者たちが、「では、持ち帰って検討させていただきます」。いきなり白けた空気が充満します。中国企業と商談する場面で、何度も見てきた光景です。日本企業を知る人々であれば、半ば苦笑して、「出たよ」という顔をします。日本企業の文化、やり方を知らない人々だと、本気で怒りだす場合も多々ありました。

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著者紹介

白井 良(しらい・りょう)

ソーシャルマン代表取締役

ソーシャルマン株式会社代表取締役。大手証券会社を2年で退社、25歳で中国の経済特区、深圳で起業。中国人スタッフを雇い、中国企業を相手にビジネスをし、中国のビジネス文化に精通する。働き方改革のためのクロスボーダーお仕事プラットフォーム「ソーシャルマン」をローンチ。同時に、ミュージシャンとしてソーシャルマンバンドを結成。3月14日ホワイトデーにメジャーデビュー。慶応義塾大学中退、北京語言大学卒業。

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