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裁量ゼロ!あまりに大きい労使間ギャップ(南アフリカ2)

2018年03月05日 公開
2018年03月05日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(31)石澤義裕(デザイナー)

旅の果てで出会った「南ア流裁量労働制」


彼女になってくれるんじゃないかってくらい、愛想がいいカフェの店員。

脱サラという働き方改革をして、23年。
住所不定で13年。
完全裁量労働制の旅人です。

好きなときに好きなところで好きなだけ働ける自由気ままのワークライフは、クライアントのさじ加減で瞬殺される風の前の塵。

官邸のみなさま、定額働かせ放題の労使協定は、上司よりクライアントのサインを貰ってください!

 

トイレと寝室が一緒!? モダンすぎる邸宅

軽自動車大陸横断ドライブは、昨年末、南アフリカの喜望峰にたどり着きました。今年から、日本を目指して走っています。

ケープタウンから伸びる海沿いは、河口や入江に点々と小さな村が隠れています。
うさぎ小屋に住んでいたボクら夫婦の尺度では、どの家も邸宅にしか見えない豪奢な造り。

馴染みのクライアントから、行間に無理難題が詰まったお仕事を頂戴したので、1週間ほど引きこもります。

宿は、隠れ家村に建つ民泊。
まだ完成していない新築物件に、南アフリカの抱える問題が見えました。

コンクリートとガラスに囲まれたモダンな家は、白人の設計。新進気鋭の建築家がデザインしたに違いないデザイナーズハウスです。

クリエーターという人種は仕事が少ないと、とかくわずかな仕事に力一杯「Something New」な自己主張を盛り込んだりするものですが、その情熱がトイレにあふれていました。

ドアがありません。

背中以外に壁のない、完全にバリアフリーなトイレ。

中南米ではドアを買うお金がないと、本来ドアがつく開口部を空けっぱなしにしたり、カーテンをかけたりしますが、その手の清貧の事情ではありません。
建築家が住み心地や使い勝手や役割より、自分のポートフォリオを優先した確信犯です。

ドアがないトイレとは、すなわち便器付きの寝室。枕の後方1メートルに、玉座が鎮座しております。

独自のトイレ文化を遂げた中国を除けば、トイレというものは密教の秘儀のごとく、他人様の視線から逃れるのが使命。そして無粋な音と邪悪な匂いを封じ込める聖なる部屋。
こんなにWelcomeな開放感では、丹田に力が入りません。
妻Yukoが同じ部屋で同じ空気を吸っているかと思えば、事と次第に魂がこもらないのです。

好きなところで働けるのに、世界一落ち着かない便所で仕事をしています。

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奇妙な設計と、愛のない仕事の合わせ技 >

著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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