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好きなことをして「脳のアンチエイジング」を

2018年03月26日 公開
2023年03月23日 更新

茂木健一郎(脳科学者)

好きなことへの没入は最高のアンチエージング

 私たち現代人は、日々さまざまな物事に追われており、なかなかじっくり考える時間が取れない。学習の時間はどのように捻出すればいいのだろうか。

「大切なのは“中間を省くこと”です。より具体的には、本質的でない物事には取り組まないようにするということです。

 八十歳を過ぎてiPhoneのアプリを作った若宮正子さんという女性がいます。アメリカでも話題になり、あるときCNNから『ニュースサイトに載せたいから、すぐにコメントがほしい』というメールが英文で送られてきました。若宮さんは英語が得意ではありません。そこで英文のメールをGoogle 翻訳で日本語にして読み、日本語で返事を書いて、またGoogle 翻訳で英文に翻訳して先方に送ったというのです。数時間後には、CNNのニュースサイトに掲載されていたそうです。

 この話を聞いて、『これぞまさに中間を省く』だと思いました。多くの日本人はこんなとき、『英語ができる誰かに代筆してもらわなければ』などと考え、無駄に時間と労力をかけがち。でも、CNNが求めているのは正確な英文ではなく、若宮さんが持っている情報です。だったら多少不正確でも自動翻訳を用いればいいし、どこか間違っていたら向こうのエディターが直してくれると割り切ってしまえばいい。こうした割り切りがいくつもの手間を省くことにつながり、仕事の効率も上がっていくのです。

 中間を省くためには仕事上での創意工夫はもちろん、Google翻訳のようなツールを活用することも欠かせません」

 無駄を省き、自分が興味のあることだけに取り組むことは、脳のアンチエージングにもつながるという。

「好きなことに熱中していると、ときには時間が経つのも忘れてその物事に没入する『フロー状態』に入ることもあるでしょう。これまた、脳の成長にとっては非常に重要な状態です。

 先日、解剖学者の養老孟司氏とお話しする機会がありました。そのとき養老氏は、『茂木君、僕なんか大好きな昆虫採集をしているときには、いつもフローだよ』とおっしゃっていました。だから、八十歳になった今でも、あれだけ頭脳明晰なのです。

 みなさんも自分が本当に夢中になれるテーマを突き詰めて追究し、ブルーオーシャンを見つけることに取り組んでみてください。脳の老化を食い止めつつ、五十歳になっても六十歳になっても最前線で活躍し続けることができるはずです」

 

取材構成 長谷川 敦

写真撮影 長谷川博一

著者紹介

茂木健一郎(もぎけんいちろう)

脳科学者

脳科学者。ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別研究教授。
1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。
主な著者に『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『脳内現象』(NHKブックス)、『脳と仮想』(新潮社)、『「脳」整理法』(ちくま新書)、『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)、『脳と創造性』『脳が変わる生き方』(以上、PHPエディターズ・グループ)などがある。

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