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人生100年時代の「ライフシフター」的仕事術

2018年03月13日 公開
2018年03月13日 更新

小暮真久(TABLE FOR TWO International代表)

 

イタリアで学んだ別の居場所」の重要性

 では、ライフシフター的な働き方を実現するには、どのようなスキルが必要なのか。

「これまで日本は何事も米国流をお手本としてきました。私もコンサルタント時代に、ロジカルシンキングに代表される左脳的思考のハードスキルを徹底的に叩き込まれた経験があります。

 でもイタリアで暮らしてみて、観察力やコミュニケーション力といったソフトスキルを磨いて、感覚的な判断をもっと大事にすべきだと考えるようになりました。イタリア人と議論していて、『なぜそう考えるのか』と聞くと、返ってくる答えは『だってそう思うから』(笑)。もちろんあとから裏付けのためのロジックは組み立てますが、先行するのは個人のセンスやひらめきです。

 最初は驚きましたが、今では私も、イノベーションや新規事業を生みだすには、もっと自分の直感や五感に頼っていいと考えるようになりました。

 タリーズコーヒージャパン創業者の松田公太さんは、ハワイ生まれのレストラン『Eggs'nThings(エッグスン・シングス)』を日本で大ブレイクさせるなど、次々とヒットビジネスを生みだしています。その秘訣をご本人に聞いたところ、『海外旅行や出張先で出合ってビビッときたものをビジネス化する』とのこと。これはまさに“アイデア直感力”と呼ぶべきソフトスキルですよね」

 イタリアで得た気づきはもう一つある。それは、会社とは別の世界を持つことの重要性だ。

「イタリアの人は、自分が所属するソーシャルサークルをいくつも持っています。家庭と職場だけでなく、共通の趣味を持つ人たちの集まりやボランティア活動などに参加して、それぞれの場で密な人間関係を築いている。そこで余暇や娯楽を楽しむ中で、『この映画で使われている技術は、自分の仕事にも使えるんじゃないか』といったひらめきを得て、本業とシナジーを生みだすこともよくあります。会社と自宅の往復だけでなく、別の居場所を作ることで良い刺激を受け、楽しみながらソフトスキルを磨いているのです。

 皆さんにも、会社以外の場に積極的に出て行くことをお勧めします。大企業に勤める人が、休日に我々のようなNPOに参加するだけでも、普段と違う体験ができますよ。きっと『人手もお金も全然ないじゃないか!』とびっくりすると思いますが、何もないからこそ知恵や工夫が生まれる。それがソフトスキルを磨くことにもつながります。

 NPOでなくても、地域の活動に参加するくらいなら、誰でも気軽に始められるでしょう。

 大事なのは、無理をしないこと。劇的に環境を変えなくても、ライフシフターの生き方を疑似体験する方法はいくらでもありますから、まずは自分の気持ちに素直になり、面白そうだと思うことをやるのが一番です」

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著者紹介

小暮真久(こぐれ・まさひさ)

TABLE FOR TWO International 代表

1972年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工科大で人工心臓の研究を行なう。99年、修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に入社し、幅広い業界のプロジェクトに従事。2005年、松竹入社、事業開発を担当。経済学者ジェフリー・サックスとの出会いに感銘を受け「TABLE FOR TWO」プロジェクトに参画。07年、NPO法人TABLE FOR TWO Internationalを創設。著書に『20代からはじめる社会貢献』(PHP新書)、『人生100年時代の新しい働き方』(ダイヤモンド社)など。

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