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転職を阻む「嫁ブロック」「親ブロック」とは?

2018年06月16日 公開
2023年03月14日 更新

石原良太(エン エージェント キャリアコンサルタント)

「娘と離婚しろ」と迫られ内定を辞退するケースも

義理の親がブロックする理由は、「会社の格が下がる」が圧倒的多数です。現在の30~40代の親の世代は、高度成長期やバブルのまっただ中で働いてきたので、今でも「大きいことは良いことだ」という価値観が根強く、転職先が大手企業や上場企業でないとなかなか認めようとしません。「非上場企業に転職するなら、娘と離婚しろ」と妻の親に迫られ、泣く泣く内定を辞退したケースもあります。

実の親がブロックする場合、理由は主に二つあります。

一つは、いまだに親が「大事な子供の人生の岐路には、影響力を発揮したい」と考えているケース。新卒で就職する際、会社や業界選びについて親の意向に左右された人ほど、ミドル世代になった今でも親の顔色をうかがい、反対されると内定を辞退してしまう傾向にあります。

もう一つは、介護の問題です。とくに長子の場合、この点は大きな阻害要因になります。現在は介護の必要がなくても、先のことを考えたとき、「転職先の勤務地から実家に通えるのか」「親を介護できるだけの収入が得られるのか」などの点が親としては大きな関心事になるのです。

 

コミュニケーション不足がブロックを生む原因に

「土壇場になって内定辞退するくらいなら、転職活動を始める前に家族と話し合えばよかったのに」と思うかもしれません。

ただ現実には、「普段は家庭で仕事の話はほとんどしない」というビジネスパーソンがほとんどです。この「希薄な労働観共有環境」が、転職の際にブロックを生み出す最大の要因です。

当然ながら私たちキャリアコンサルタントも、転職希望者との最初の面談で、「ご家族に相談しましたか?」と確認します。すると大半は、「大丈夫です」「妻は僕が言うことに反対しないので」と自信満々に答えます。ところがそんな人ほど、後になって「妻に反対されまして……」と言い出すことが多いのです。

これは推測ですが、おそらく本人は、家族と転職について話すのが怖いのだと思います。転職活動をすると、市場から自分の価値を正確に評価されます。その現実が予想より厳しいものであれば、プライドが傷つくこともあります。自分の適正年収がいくらで、どんな会社なら採用してもらえるのかといった現実を家族に伝えるのは、非常に勇気がいります。だから転職活動の過程は周囲に見せず、「転職先が決まってから家族に伝えよう」と考えるのでしょう。

こうした事情を知ると、転職をブロックする妻の気持ちも理解できます。何も聞かされていなかったのに、突然転職すると告げられたらびっくりするのは当たり前です。夫の職場や仕事が変われば、それに伴って家族の将来設計や生活リズムも変える必要が生じますから、事前の相談なしにいきなり「転職が決まった」と言われたら、反対されても仕方ありません。

よってブロックを避けるためには、普段から夫婦や親子でコミュニケーションをとり、自分の仕事やキャリアについて考えを伝えておくことが大事です。今は転職を考えていなくても、「いつかはこんな仕事にチャレンジしてみたい」「大手企業でも安泰の時代ではないし、自分も転職を考える時が来るかもしれない」などと話し合い、将来について考えを共有しておけば、家族も心構えができます。

 

「覚悟」がないと他人の意見に流される

一方で興味深いのは、弊社のアンケートで「嫁ブロックを理由に内定辞退したことをどう思うか」という質問に、63%が「辞退してよかったと思う」と肯定的に捉えていることです。

他人の意見に耳を傾けることで、冷静な判断ができるというメリットは確かにあります。アンケート調査でも、「落ち着いて考えたら妻の言い分は理にかなっていた」「よく調べたら辞退した会社の経営状態が悪かった」などのコメントがありました。

ただ、他人の意見に従うということは、本人に「自分は転職の道を選ぶのだ」という覚悟がなかった証拠でもあります。

転職とはリスクであり、かなりの勇気と覚悟を持って一歩前に踏み出さなくてはいけません。そのとき誰かが「危ないからやめておきなさい」と言ってくれたら、覚悟がない人ほどホッと安心して、「そうだよね」と同意してしまいます。

それに、転職先の新しい環境で成果を出せるようになるまでは、誰もが苦労します。このつらい時期を乗り越えるためにも、本人の覚悟が絶対に必要です。

その覚悟を確認できる良い機会が、嫁ブロックや親ブロックということ。仮にブロックされても「転職する」と自信を持って言えるか、自分に問いかけてみてはいかがでしょうか。

 

《『THE21』2018年6月号より》

著者紹介

石原良太(いしはら・りょうた)

エン・ジャパン〔株〕 エン エージェント キャリアコンサルタント

1981年、群馬県生まれ。2004年、エン・ジャパン入社。中小企業から大手企業の中途採用支援を経て、現職。転職を希望する求職者のキャリア支援に従事する。

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