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アマゾンだけが「イノベーションのジレンマ」に陥らない理由

2018年04月19日 公開
2023年03月14日 更新

田中道昭(連載「アマゾンの大戦略」に学ぶMBA講座 第1回)

アマゾンの「顧客第一」。その対象とは?

それでは、アマゾンのミッション、ビジョン、バリューを私の著作である『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)から見ていきましょう。


出典:『アマゾンが描く2022年の世界』49ページより

重要なので再度お伝えすると、ミッションとは、その企業の使命や存在意義です。ビジョンとはその企業の将来の姿や夢。ミッションが目的であるのに対して、ビジョンは目標ということになります。そしてバリューとは、その企業で大切にされている価値観やルールのことを指しています。

アマゾンは、ミッションとビジョンの両方に「地球上で最も顧客第一主義の会社」という言葉を掲げている企業です。「顧客第一主義」こそは、アマゾンにおいて最重要であり、本講座のなかでも再三登場するキーワードとなります。

ただし、ここでいう顧客とは、アマゾンで本を購入するような一般的な「消費者」に限りません。アマゾンのアニュアルレポートのなかには、消費者、販売者、デベロッパー、企業・組織、コンテンツクリエイターの5つが顧客であると書かれています。

 

「将来の儲けのために、今の利益を手放す」は正しい

一番目の「消費者」は、アマゾン本体のようなBtoCサービスにおける顧客のことであり、それ以外の4つ(販売者、デベロッパー、企業・組織、コンテンツクリエイター)はすべてBtoBサービスの顧客だといえます。

たとえば、販売者とはアマゾン本体に出店しているショップのこと、デベロッパーとはクラウドコンピューティングの「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」の顧客のこと、コンテンツクリエイターとは、「Amazonプライム・ビデオ」や「Amazonビデオ ダイレクト」など、今アマゾンが非常に力を入れている動画配信に参画しているクリエイターを主に指しているのだと考えられます。

図において、とくに覚えておいてほしいのは財務目標のところです。ベゾスは「長期におけるフリーキャッシュフローの極大化」が目標であると再三語っています。

アマゾンといえば利益を追わず、儲けた分は事業拡大や低価格戦略に回す戦略で知られてきました。そのため、冴えない純利益に比べてキャッシュフローは驚異的です。ジェフ・ベゾスはそれを「将来の企業価値を極大化する」ためだと言っているのです。見方を変えれば、将来儲けるために、今の利益を手放すという戦略。一見遠回りに見えますが、フリーキャッシュフローを重視すること自体は財務理論的にも正しい考え方なのです。

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著者紹介

田中道昭(たなか・みちあき)

立教大学ビジネススクール教授

シカゴ大学ビジネススクールMBA。戦略論を専門として、経営を中核に政治・経済・社会・技術の戦略を分析する「戦略分析コンサルタント」でもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長などを歴任。現在、株式会社マージングポイント代表取締役社長。著書に、『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(ともにPHPビジネス新書)など。

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