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アマゾンだけが「イノベーションのジレンマ」に陥らない理由

2018年04月19日 公開
2023年03月14日 更新

田中道昭(連載「アマゾンの大戦略」に学ぶMBA講座 第1回)

自社のサービスを潰してもOK!?


アマゾン・エコーを生み出せた理由とは?

なぜそんなことが可能なのでしょうか。

それは、早くから「イノベーションのジレンマ」に意識的だったベゾスが、大企業でありながら破壊的イノベーションを自ら起こす企業であり続けようとしているからです。そのためであれば既存ビジネスとのカニバリゼーションも躊躇しません。

Kindle(キンドル)はよい例です。電子書籍はアマゾン創業以来の書籍通販ビジネスとカニバリゼーションを起こす可能性のあったサービスですが、ベゾスはそれを恐れず、キンドルという破壊的イノベーションを生み出したのです。ベゾスは、それまで書籍部門を任せていた幹部をデジタル部門に異動させたうえで、こう語ったといいます。

「君の仕事は、いままでしてきた事業をぶちのめすことだ。物理的な本を売る人間、全員から職を奪うくらいのつもりで取り組んでほしい」(『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』〈日経BP社〉)。

プラットフォームやエコシステムという構想を早くから推し進めてきたのも同じくイノベーションの文脈からです。AWSは、もともとは自社サービスのために開発されたクラウドサービスを他社も利用できるようオープンにしたもの。アマゾン・エコーに搭載されている音声認識システム「アマゾン・アレクサ」も、サードパーティのメーカーがアレクサ搭載製品をつくれるよう開発ツールを公開しています。

囲い込むのではなく、オープンにする――。イノベーションを起こすうえでそれは諸刃の剣です。他社に真似され、競争優位性を失うなどのリスクがあるからです。しかし、アマゾンはあえてリスクをとり、自らを競争にさらしている。ベゾスはそうした競争のなかから破壊的イノベーションが生まれてくると期待しているのです。

[第1回目のディスカッションテーマ]

あなたの会社における事業に対する哲学・想い・こだわりとは何でしょうか。それらがきちんとミッション、ビジョン、バリューとして文章化されているでしょうか。さらには、それらが顧客に提供している商品・サービスや社員の行動に練り込まれているでしょうか。

(第2回は5月上旬に掲載予定)

著者紹介

田中道昭(たなか・みちあき)

立教大学ビジネススクール教授

シカゴ大学ビジネススクールMBA。戦略論を専門として、経営を中核に政治・経済・社会・技術の戦略を分析する「戦略分析コンサルタント」でもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長などを歴任。現在、株式会社マージングポイント代表取締役社長。著書に、『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(ともにPHPビジネス新書)など。

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