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「1メートル」が今の長さになった理由とは?

2018年06月03日 公開
2023年03月14日 更新

永野裕之(永野数学塾塾長)

4000年前より使われてきた「キュービット」

そもそも人類が「単位」を使うようになったのは、集団生活を営む上で法律(ルール)が必要になった頃と同時期だと言われています。収穫物を分配したり、物々交換をしたりする際に喧嘩にならぬよう長さや大きさや重さなどを測る単位が生まれたのは想像に難くありません。平等に分けるために共通の基準が作られるのは当たり前です。

長さの単位を作る際に最初に参考にされたのは、やはり一番身近な人体です。

中でも、時の権力者の肘から中指までの長さを基準にした「キュービット」は、西洋を中心に広く使われていました。権力者の身体を基準にするので1キュービットの長さは時代や場所によって変わってしまいますが、概ね1キュービットは50cm前後(公式のもので現存する最古のものは、紀元前2170年頃のシュメール王グデアの坐像の腕の長さから測定される49.6cmです)です。

 

フランス革命後に登場した「メートル」

古代には他にも自然物のサイズ、人や家畜の能力などが「基準」として採用されていました。面白いところでは「牛の鳴き声が聞こえる長さ」とか「トナカイの枝角の分かれ目を見分けられる距離」とか「熱々のお茶が飲み頃になるまでに走れる長さ」などを単位にした例もあります。

15世紀の半ばに大航海時代が幕を開けてから、各国は盛んに交易するようになりました。しかしそうなってくると、それぞれの国がそれぞれの単位を使っていることの障害が浮き彫りになります。交易をスムーズに行うための「世界共通の単位」を求める声が高まる中、フランス革命直後のフランスで、1790年にタレーランが新しい長さの単位(後のメートル)の制定を求める法案を提出しました。

メートルは、「ものさし」や「測ること」を意味するギリシャ語のmetron(あるいはラテン語のmetrum)が語源です。

新しい単位の基準を何にするかは議論がありましたが、最終的には、北極点から赤道までの距離の1000万分の1を1メートルに定めることが決まりました(赤道の長さの4000万分の1という案もありましたが、赤道を実測するのは難しいことから見送られました)。だいたいダブルキュービット(約1m)程度になるように配慮されたそうです。それまでの経験上、1ヤード(0.9144m)と同じくダブルキュービット程度を基準にしておけば、生活をする上で都合がいいことを知っていたのでしょう。

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著者紹介

永野裕之(ながの・ひろゆき)

「永野数学塾」塾長

1974年、東京生まれ。暁星高等学校を経て東京大学理学部地球惑星物理学科卒。同大学院宇宙科学研究所(現JAXA)中退。レストラン経営、ウィーン国立音大への留学を経て、現在は個別指導塾・永野数学塾(大人の数学塾)の塾長を務める。これまでにNHK、日本経済新聞、プレジデント、プレジデントファミリー他、テレビ・ビジネス誌などから多数の取材を受け、週刊東洋経済では「数学に強い塾」として全国3校掲載の1つに選ばれた。プロの指揮者でもある(元東邦音楽大学講師)。著書に『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』『数に強くなる本』(PHPエディターズ・グループ)、『大人のための数学勉強法』(ダイヤモンド社)など多数。

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