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あなたの会社でもし、日大のような「事件」が起きたら?

2018年06月04日 公開
2023年03月14日 更新

山見博康(広報・危機対応コンサルタント)

「出たがらない」トップを説得するのも広報の仕事

これらの準備が整ったらいよいよ「発表」となるのだが、そこで問われるのがその方法だ。

一斉発表するのか? それとも個別対応でいくのか? 一斉発表のうえ記者会見をするのか? それともニュースリリース配布だけで済ませるのか? 加えて誰が発表者になるのか?……その方法によって会社の姿勢が問われることになる。

とくに発表者選びは重要だ。誰が発表者かによって、その案件に対する企業の姿勢がわかる。言うまでもなく、問題が大きければ大きいほど、トップ自らが語る必要が出てくる。

しかしながら、やはり問題が大きくなればなるほど、トップは記者会見に出たがらなくなる。とくにメディア嫌いのトップに顕著だ。

そこへ、直属の部下や取り巻きが“過度の忖度”により「殿! まだお出になる時ではありません。私が何とか押さえます……」とトップの出番を遅らせ、事態をより悪化させることもある。

広報担当としては、それらの忖度を排除し、いかに「会社の説明責任(Accountability)を果たすか」という視点から動かなくてはならない。たとえばトップに対し、「会見は、メディアに対して伝えるのではなく、その背後にいる国民やステークホルダーに伝えるためだ」などと伝えることで、トップを動かさなくてはならないのだ。

ここで一つ、忘れがちなことがある。こうした発表はメディアを通じてだけでは不十分であり、顧客や取引先といったステークホルダーにも直接、伝えるべきということだ。各部署がそれぞれのステークホルダーに対して、ニュースリリースとQ&Aを元に直接知らせるという活動を、同時並行で行なわねばならない。

以上は簡単に思えるかもしれないが、実際にはこれをせっぱつまった中で、場合によっては1~2時間の間にすべてこなさねばならないこともある。そのためには、会社全体が情報を隠さない、自由に意見が言える「素直な雰囲気」、「率直な社風」になっていなければとうてい不可能だろう。

 

今回の事件を「7つの直」に当てはめると……

では、今回の事件を「7つの直」に当てはめて考えてみよう。

1 直報・・・監督やコーチ、選手から、直接あるいは広報を通じて学長や理事長に報告があった節は見られない。

2 直行・・・広報が直ちに関係者のところに行きアクションをとった形跡はない。

3 直視・・・事態を直視した様子はなく、むしろ、見ようとしない、見て見ぬふりをしているように見える。

4 直言・・・誰もがお互いに本当のことを言い合っているとは思えず、隠し合っているように見える。

5 直作・・・広報が情報を集め、積極的にニュースリリースやQ&Aを作成した様子はない。

6 直報・・・公表を避け、自ら公式に記者会見を開いたのは2週間以上経ってから。

7 率直・素直・・・円滑な情報交通が図られているようには見えない。

このように、7つの直の原則からことごとくかけ離れていると言わざるを得ないだろう。

企業の広報担当者は、今回の事件をきっかけに、我が身を振り返ってみるよう勧めたい。

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著者紹介

山見博康(やまみ・ひろやす)

広報・危機対応コンサルタント

1945年福岡県生まれ。1968年九州大学経済学部卒業。同年神戸製鋼所入社。人事部、鉄鋼事業部、海外勤務を経て、1979年より一貫して広報に携わる。1991年広報部長、1994年ドイツ・デュッセルドルフ事務所長を歴任。1997年スーパーカー商業化ベンチャー企業及び経営コンサルティング会社に出向。中小企業経営を学んだ後、2002年山見インテグレーターを設立し、現在、代表取締役。米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院マネジメントプログラム修了。10年に及ぶ海外生活や大小企業における豊富な実践経験に基づいて、広報・危機対応・マーケティングに関するコンサルティングを中心に、セミナー講師、執筆活動などを行なう。
主な著書に、『広報の達人になる法』『だから嫌われる』(以上、ダイヤモンド社)、『広報・PR実務ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)、『企業不祥事・危機対応広報完全マニュアル』(自由国民社)、『勝ち組企業の広報・PR戦略』(PHP研究所)などがある。

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