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ブランド化に成功した「今治タオル」が、今、銀座に出店する理由

2018年06月14日 公開

藤高豊文(〔株〕藤高 社長)

 

「小ロット」「短納期」を武器にB to Bのビジネスを広げる

 

 ――その後、2009年に理事長を辞められます。

藤高 理事長は1期2年で、2期務めるのが慣例です。けれども、「NHKの全国放送で取り上げられる」「5大紙の全国版に載る」「『今治タオル』の認知度を50%以上にする」という3つの目標を達成することができましたから、3年で辞めました。

 認知度は、2004年には36.6%でしたが、08年には50.2%に上がっていました。その後、12年には70.1%にまでなっています。

 ちなみに、私が理事長になる前年に「地域団体商標」の制度が始まったので、さっそく「今治タオル」を申請したのですが、はじめは特許庁にNGを出されました。確かに今治は日本一のタオルの生産地だけれども、「今治タオル」という名前で商品を売った実績がない、というのが理由でした。最終的には07年に登録することができたのですが、当時の「今治タオル」は、そんな状態だったのです。

 ――理事長退任から9年が経った今、東京・銀座に出店するのは、なぜですか?

藤高 今治タオルのブランドが認知され、売れるようになったとはいえ、従来やってきた有名ブランドのOEMに比べると、まだまだ売上高では及びません。

 問屋が欧米の有名ブランドと契約して、そのブランドのタオルを我々メーカーがOEM生産するということが、長く行なわれてきました。それが、売上げの多くの部分を占めていました。

 ところが、この5年間ほどで、契約を打ち切るブランドが多く出てきました。欧米ではハイブランドのものは一部の富裕層しか持っていませんが、日本では普通の人でも持っています。それがブランドの価値を低くすると考えるようになったのでしょう。

 そうなると、当社としては、ブランド商品が減ることで空いた穴をどう埋めるかが課題になります。

 問屋としても、有名ブランドのタオルの代わりとして、今治タオルの取り扱いを増やしました。けれども、問屋を通して、百貨店でギフトとして売っていただくルートには、限界があります。欧米の有名ブランドで売っていた時代には及ばないのです。

 そこで、当社の強みである「小ロット」「短納期」を活かせる、新しい顧客を開拓することにしました。

 この強みも、OEMのために磨いてきたものです。例えば、カラーバリエーションを豊富に揃えなければならない商品だと、小ロットの色もあるわけです。それに対応できるように、設備面も含めて、体制を整えてきました。

 新しい顧客を開拓するといっても、かけられる労力が限られているので、ビッグサイトでの展示会に年4回、出展することが主な活動でした。そうして、喫茶店のおしぼりから、もっと大規模な会社様まで取引が始まり、今では売上げの3分の1が小ロットの商品になっています。

 これをさらに拡大するためには、年4回の展示会への出展だけではなく、一年中B to Bのお客様に来ていただけるショールームが必要です。そこで、お客様に来ていただきやすい銀座への出店を決めたのです。四国の片田舎までは、お客様は来てくれません。

 ――銀座の店は、個人への小売りというよりも、法人との商談のために出すのですね。

藤高 1階はショップになっていますが、それだけで採算を取るのは難しいでしょう。もちろん、個人のお客様にも多く来ていただき、我が社の商品に親しんでいただきたいと思いますが、法人のお客様にも足を運んでいただき、それぞれのお客様のお求めに応じた商品を作っていきたいと思っています。

 お話ししたように、今治タオルのブランディングが成功したきっかけは、東京進出でした。今回の東京進出も、そのときのように成功させたいと思います。

著者紹介

藤高豊文(ふじたか・とよふみ)

〔株〕藤高 代表取締役社長

1949年、愛媛県今治市生まれ。73年、神戸大学経営学部卒業後、市場調査会社で3年勤務。75年に〔株〕藤高大阪に入社し、藤高本社、東京事務所を経て、90年に本社および子会社の社長に就任。2006~09年、「今治タオル工業組合」(当時は「四国タオル工業組合」)理事長を務めた。

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