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コロンブスがトウガラシを「ペッパー」と呼んだ意外な理由

2018年07月09日 公開

稲垣栄洋(植物学者)

植物の魅惑の成分

それにしても、どうしてトウガラシはアジアの人々をこんなにも虜にしたのだろうか。

植物の中にはマリファナの原料となる大麻や、モルヒネやヘロインの原料になるケシのように中毒性のある成分を持つものがある。

麻薬だけではない。煙草の原料となるナス科のタバコは、ニコチンというアルカロイドを持っている。このニコチンも中毒性の高い物質である。

コーヒーや紅茶、ココアは世界の三大飲料と呼ばれていて、世界中の人々に愛されている。コーヒーはアカネ科のコーヒーノキの種子から作られる。また、紅茶はツバキ科のチャの葉から作られる。また、ココアはアオギリ科のカカオの種子から作られる。

この三大飲料には、共通して含まれている物質がある。それがカフェインである。カフェインはアルカロイドという毒性物質の一種で、もともとは植物が昆虫や動物の食害を防ぐための忌避物質であると考えられている。このカフェインの化学構造は、ニコチンやモルヒネとよく似ていて、同じように神経を興奮させる作用がある。

このカフェインにも、タバコのニコチンと同じように依存性がある。つまり病み付きになってしまうのだ。他にいくらでも植物はあるのに、世界の人々が魅了されているのは、すべてカフェインを含む植物なのである。

 

辛さとは「痛さ」である

それでは、トウガラシはどうだろう。

トウガラシの辛味成分はカプサイシンである。このカプサイシンも、もともとは動物の食害を防ぐためのものである。ところが、人間がトウガラシを食べるとカプサイシンが内臓の神経に働きかけ、アドレナリンの分泌を促して、血行が良くなるという効果がある。

ところで、トウガラシを食べると辛さを感じるが、不思議なことに人間の味覚の中に「辛味」はない。

そもそも人間の味覚は、生きていく上で必要な情報を得るためのものである。たとえば苦味は毒を識別するためのものだし、酸味は腐ったものを識別するためのものである。また、甘味は、人間に進化する前のサルが餌としていた果実の熟度を識別するためのものである。ところが、舌には辛味を感じる部分はないのだ。

それでは、私たちが感じるトウガラシの辛さはどこからくるのだろう。

じつはカプサイシンは舌を強く刺激し、それが痛覚となっている。つまり、カプサイシンの「辛さ」とは「痛さ」だったのである。そこで、私たちの体は痛みの元となるトウガラシを早く消化・分解しようと胃腸を活発化させる。トウガラシを食べると食欲が増進するのは、そのためなのである。

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トウガラシの魔力の源とは? >

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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