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「ジャガイモ」を愛したマリー・アントワネットの悲劇



2018年07月11日 公開

稲垣栄洋(植物学者)

ヨーロッパは「芋」向きの土地ではなかった

もともとヨーロッパでは「芋」はない。

芋は、雨期と乾期が明確な熱帯に多く見られるものである。雨期に葉を茂らせながら貯蔵物質を地面の下の芋に蓄えて、その芋で乾期を乗り越えようとしているのである。

たとえばジャガイモは南米のアンデス地域が原産である。アンデス地域は標高が高く、冷涼な気候だが、気候区分は熱帯であり、雨期と乾期がある。

また、サツマイモもアメリカ大陸の熱帯性気候の中央アメリカが原産地である。日本人にもなじみの深いサトイモやコンニャクイモは東南アジアの原産であるし、ヤマイモ(ナガイモ)は中国南部の原産である。タピオカの原料としても有名なキャッサバも熱帯性気候の中南米の原産である。

一方、ヨーロッパの農耕地帯の地中海性気候では、冬に雨が降り、夏に乾燥する。そのため、植物は雨の降る冬の間に生育するものが多くなる。そういえば、地中海沿岸地域の主要な作物であるコムギも、秋に種子を播く冬作物である。

そして、ダイコンやカブに見られるように、茎を伸ばさず地面の近くに葉だけを広げて光合成を行い、地面の下に貯蔵物質を蓄える根菜類が広まっていくのである。

そのため、ヨーロッパの人々はダイコンのような根菜類は知っていたが、ジャガイモのような芋類は見たことがなかったのである。

 

ジャガイモの毒はかなりの強さ

ジャガイモのことを知らないヨーロッパ人の中には、芋ではなく、ジャガイモの芽や緑色の部分を誤って食べてしまうこともあったという。これは大事件である。

ジャガイモの芽や緑色に変色した部分は、食べてはいけないと言われている。ジャガイモは、芋は無毒だが、ソラニンという毒を含む有毒植物である。ソラニンはめまいや嘔吐などの中毒症状を引き起こす。その致死量はわずか400ミリグラムというから、かなりの毒の強さだ。

ジャガイモはナス科の植物だが、ナス科の植物には有毒なものが多い。

魔女が使ったとされる有毒植物のヒヨスやベラドンナ、マンドレイクはナス科の植物であるし、日本では幻覚で鬼を見ることから鬼見草の別名を持つハシリドコロもナス科である。また、ナス科のチョウセンアサガオやホオズキも有毒植物である。

そして、ジャガイモも葉が毒を持つのである。

ジャガイモ中毒が続くと、ジャガイモは有毒な植物であるというイメージが強まってしまった。

また、ジャガイモはそのゴツゴツとした醜い姿から、食べるとハンセン病になるというデマが流布されていた。

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