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100人の村にビル・ゲイツが 越してきたら、村の平均年収はいくら?

2018年08月06日 公開
2023年03月14日 更新

神永正博(東北学院大学工学部教授)

100人の村にビル・ゲイツが引っ越してきたら?

 平均値が実感とかけ離れているのはなぜなのでしょうか。

 たとえば、一般的な収入で暮らす100人の村人が住む地域に、ビル・ゲイツが引っ越してきたとしましょう。すると、その地域の平均年収は突然何億円にも跳ね上がります。平均値は極端な値に弱く、一番上の値が他とかけ離れていると、そこに引きずられて平均値が劇的に上がってしまうのです。つまり、総収入を村人の数で割って年収全体を均ならしても、極端な値が底上げした値に騙されるだけなのです。とくに、富裕層の収入は株式や不動産投資といった資産所得が大きなウエイトを占めるので、株式市場の変動に敏感に反応してしまいます。

 一方で、中央値はデータを下や上から順に並べたとき、真ん中に来る値を表わしています。だからこそ、一般的な国民が手にする所得の感覚に近いと言えるのです。

 そもそも、こうした誤解が生まれる背景には、世の中のデータのバラつきはすべて左右対称であり、平均値に一番大きな山がくるという思い込みがあるのではないでしょうか。こうした左右対称の図を正規分布と言いますが、所得を見てわかるとおり、現実にはもっとバラつきがあります。ちなみに、こうした左や右に傾いている図をワイブル分布と呼びます。

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データのバラつきで集団の特徴がわかる >

著者紹介

神永正博(かみなが・まさひろ)

東北学院大学工学部教授

1967年、東京都生まれ。京都大学大学院理学研究科数学専攻博士課程中退。博士(理学/大阪大学)。日立製作所中央研究所研究員などを経て現職。専門は暗号理論、数理物理。2010年度、数理科学研究所客員研究員として南インドに滞在。『未来思考』(朝日新聞出版)『ウソを見破る統計学』(講談社ブルーバックス)『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』(日経ビジネス人文庫)など、著書多数。

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