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なりたい脳にデザインできる! 「脳トレ読書」

2018年10月23日 公開
2023年03月14日 更新

加藤俊徳(脳内科医/医学博士)

聴覚系脳番地

聴覚系脳番地は、相手や自分の声といった外部の音だけでなく、本を読んだときに頭の中で響く音(内言語)にも刺激を受ける。これがうまく機能しないと、頭の中で音が響かないため、言葉が頭の中に入ってこない。この能力を高めるには、以下の方法がお勧めだ。

「暗唱」で内言語を強化

暗唱するには、内容を覚えて、頭の中で文章を繰り返す必要がある。そのため、内言語を強化しやすい。まずは、短い文章や短歌から始めて、文字を頭の中に定着させてみよう。

「音読」で複数の脳番地を鍛える

音読は、耳から言葉の意味を理解するために欠かせない訓練だ。口を動かすことで運動系脳番地を、言葉をアウトプットすることで伝達系脳番地も刺激することができる。

予め「著者の講演」を聞こう

本を読む前に著者の講演を聞いておくと、読んだ本の内容が著者の声で脳内再生されることがある。内言語を強化できるだけでなく、書籍の予備知識も得られて一石二鳥である。

 

記憶系脳番地

記憶を司る海馬を含む脳番地。海馬とその周囲の領域が老化し始めると、アルツハイマー型認知症の発症につながる可能性がある。しかし、記憶する習慣を持つことで海馬は何歳であっても成長するので、次に紹介する読書法をぜひ実践してみてほしい。

「乗り換え読み」で記憶力アップ

本を閉じて数分の間、脳はその内容を記憶し続けている。つまり、通勤時に読書をすれば、乗り換えが多いほど本を閉じる回数も増えるので、記憶系脳番地は刺激され続ける。

「人物相関図」を作成しよう

暗記が苦手な人は、情報を整理しながら読書しよう。内容を理解しながら読むことで、覚えやすくなる。小説なら人物相関図を、学術書などはフレームワークを使うと良い。

昔読んだ本を「再読」すべし

過去に読んだ書籍を一度読み返すだけで、記憶系脳番地は刺激を受ける。昔読んだ感想と、今読んだ感想を比較し、その違いを発見できれば、さらに脳を活性化することができる。

 

視覚系脳番地

左脳側の視覚系脳番地は文字を、右脳側は映像を処理する。読書では、文字情報を脳内で映像に変換するため、どちらの働きも重要だが、左脳が発達しすぎると映像が浮かばず、右脳が発達しすぎると文字情報が理解できない。バランスよく鍛えるには、どうすべきか。

「風景とセット」で楽しもう

左脳側が発達しすぎて映像が浮かばない人は、本と映像をセットで楽しもう。たとえば、好きな作品の舞台となった土地を巡礼しながら読書をすれば、文字の映像化の助けとなる。

「マンガ」で視覚的な理解を

右脳側が発達しすぎて活字が苦手な人は、マンガがお勧め。絵が、文字情報を理解する助けとなる。解説がついた絵画の作品集や、映画のパンフレットなどでも同様の効果がある。

「飾る読書」で記憶が定着!?

昔読んだ本を本棚に飾っておけば、目に触れるたびに、脳内ではその内容が反芻されている。脳内で文字情報と映像が再生されるので、視覚系脳番地が刺激されるのだ。

 

感情系脳番地

感情系脳番地は、コミュニケーションで欠かすことのできない、いわゆる「共感力」を司る部位。左脳側の感情系脳番地は自分の感情を作り出す役割を、右脳側は他人の感情を理解する役割を果たしている。感情系脳番地を鍛える本の読み方は、以下の通り。

小説で「人との出会い」を疑似体験

人の心を理解するには、人と会うのが一番。だが、登場人物の感情を疑似体験することで、同様の効果が得られる。本の中でたくさんの人に出合い、自分を投影してみよう。

「ベストセラー」を読もう

共通する記憶が多いほど、コミュニケーションは活発になり、共感する機会が増える。多くの人が手に取るベストセラーを読めば、そのチャンスが増え感情系脳番地が活性化する。

「役者読み」で感情を育てる

小説の中の登場人物を一人決め、「自分が演じたらどうなるか」をシミュレーションしながら読む。そうすることで、登場人物の喜怒哀楽をより深く理解することができる。

 

理解系脳番地

本の内容を咀そしゃく嚼したり、情報を比較するときに働く理解系脳番地。「わかった!」という感覚は、この脳番地が関係している。記憶力とも密接にリンクしているため、理解系脳番地を鍛えれば、記憶系脳番地も高めることができる。その方法は、以下の通りである。

「目次読み」で効率よく理解する

本にはキーワードが存在する。キーワードをどう活かして論が展開されるのかを、予め目次で把握すれば、その言葉に対する感度が上がるので、本の理解度を高めることができる。

自分の考えと比較して読む

評論などを読む際、自分と作者の考えを比較すれば、「自分の理解度」を測ることができる。合致していれば自信が持てるし、違っていれば原因を考えることでより理解を深められる。

「部分読み」で、徐々に理解度を上げる

学術書などといった難解な書籍は、頭からすべて理解しようとすると挫折しやすい。まずは、わかりやすい箇所を徹底的に読み込もう。一部を理解し、徐々に範囲を広げていく。

 

思考系脳番地

迅速で的確な判断を下すには、速く、そして深く考える能力が欠かせない。そこで、思考力や意思決定力を担う思考系脳番地を鍛えたい。ここを鍛えると、考え抜く力が磨かれ、答えのない状況にも耐えうるメンタルも手に入れることができる。

「目的読み」で考える力がつく

思考系脳番地は、本と主体的に関わることで活発になる。そこで、「自分が知りたい情報を探す」など、本を読む目的を意識したい。本から得られる情報も格段に増えるだろう。

余白に書き込みながら読む

本と対話しながら読み進めることで、自分の考えを深めることができる。余白に自分の感情や考えをアウトプットして、思考を整理しながら読書してみよう。

「浮気読み」が判断力を養う

まったく違うことを同時進行するためには、その場で素早く思考し、判断する力が必要だ。複数の本を同時に読み進めると、思考の切り替えが必要なので、判断力を養える。

 

伝達系脳番地

伝達系脳番地はアウトプット専門の脳番地。頭に浮かんだ言葉を伝える役割を果たす。読んだり聞いたりしたことをメッセージとして発信するアナウンサーや通訳者などは、この脳番地が発達している。頭の中に言葉が溢れるようになるには、次の方法がお勧めだ。

本を「伝える意識」を持つ

「伝えたい」と思うだけで、伝達系脳番地を強化できる。感想を語ることを前提に、本の概要や面白かったポイントを頭の中でまとめ、「どう伝えるか」を考えながら読んでみよう。

誰かに「教えるつもり」で読む

何かを教えるには、相手にわかるように伝えるスキルが欠かせない。教える意識を持って読書をすると、言葉を易しく言い換える習慣が身につくので、表現する語彙も増えていく。

「名言集」を読もう

メッセージを送るとは、内言語を伝える作業である。その内言語の強化に役立つのが名言集を読むこと。強く印象に残るのはどんな言葉なのか。その特徴を学ぶことができる。

 

運動系脳番地

運動系脳番地は、身体を動かすときに活性化する部位である。さらに、アタマの中で身体を動かすシミュレーションをする際にも使われる。一見、読書をするだけでは鍛えられなさそうな脳番地だが、次のような読み方をすることで鍛えることができる。

「スポーツ系マンガ」を読もう

『スラムダンク』『テニスの王子様』などのスポーツ系マンガは、映像がダイナミックに変わるため、運動系脳番地を大いに刺激する。バトルものやアクションものの作品も良い。

「ゲームの攻略本」が効く!?

運動系脳番地は全身の動きをシミュレートしなくても刺激される。テレビゲームの攻略本で、キャラクターをどう操るか、指先の動きをシミュレーションするだけでOK。

読んだ内容を「再現」する

例えば、ゴルフの本を読んで、実際にスウィングしてみると、運動系脳番地が刺激される。運動系だけでなく、視覚系や理解系といった脳番地も刺激を受けるので、脳全体が成長する。

 

『THE21』2018年10月号より

著者紹介

加藤俊徳(かとう・としのり)

脳内科医、医学博士、 加藤プラチナクリニック院長

Toshinori Kato (株)「脳の学校」代表。 昭和大学客員教授。MRI脳画像診断・脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや助詞強調音読法の提唱者。91年、脳活動計測「fNIRS法」を発見。95年から2001年まで米国ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI画像の研究に従事。発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、小児から高齢者まで1万人以上を診断・治療。『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など著書多数。

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