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「全女イズム」の後継者に聞く「女子プロレスの魅力とは?」

2018年11月15日 公開
2022年04月01日 更新

高橋奈七永(女子プロレスラー/SEAdLINNNG代表取締役)

 

「高橋奈七永」というジャンルを確立したい

 ――高橋さんは、現役選手であるとともに、〔株〕SEAdLINNNGの代表取締役でもあります。今後のSEAdLINNNGの運営方針をお教えください。

高橋 RIZINという総合格闘技の大会で勝ったりすることも大きなアピールになるとは思いますが、それよりも、「高梨奈七永」というジャンルを確立したいと思っています。自分が信じる道を究めたいと思って旗揚げしたのがSEAdLINNNGですから。

 別の言い方をすると、SEAdLINNNGをRIZINやK-1と並ぶ存在にしたいですね。

 ――所属選手の数を増やす考えは?

高橋 もちろん、あります。

 ただ、嬉しいことでもあるのですが、SEAdLINNNGのスタイルは業界の中でも恐れられているので、人材を集めるという面では難しいところがあるんです。今、ようやく練習生の子が入って来てくれているので、しっかり育ててデビューさせたいと思っています。

 ――フリーの選手から「所属したい」という話があったりは?

高橋 ないですね。高橋奈七永は恐いと思われているらしくて(笑)。しゃべったら恐くないと思うんですが、試合中の目がヤバいとよく言われます。人が変わるので。

 ――資金面はどうですか?

高橋 大変ですよ(笑)。結局、出ていくお金よりも入ってくるお金を多くするという単純なことですが、会社を設立してから初めてやるようになったことですし。大会を継続して開催する経験も会社を設立するまでなかったので、今も迷いながらやっています。

 それに、選手と会社経営者の二つの顔のバランスを取るのが、かなり大変です。練習ももっとしたいし、仕事ももっとしたいし。

 ――選手でもあり、経営者でもある人は、女子プロレス界で他にもいるのでしょうか?

高橋 います。でも、商売敵なので、そういう話はしません。初めの頃は話を聞いたこともありますが、他団体でやっていることをやっても二番煎じ以下にしかなりませんし。

 ――全女が倒産し、その後、興行もできなくなったのを見てきて、どこに原因があったと思いますか?

高橋 それは明らかに、お金がある良い時代があったので、不動産や株に手を出して多額の借金を作ったことです。興行だけなら、それほど大きな借金はできません。

 ですから、不動産や株は手を出すものではないなと思う一方で、プロレス一本ではなく、チャンスは自らつかみにいかないといけないと思っている部分もあります。

 ――興行は、どのくらいの規模でやっていきたいと考えていますか?

高橋 今は月に2~3大会やっているのですが、もう少し増やして、しかも自分の団体だけで回せるようになるのが理想です。そのためには15人前後の選手が必要ですね。

 ただ、今は選手が足りないと嘆くんじゃなくて、いろんな選手を呼べることを強みだと捉えて、お客さんにいろんな顔ぶれを楽しんでもらおうという発想をしています。

 ――どんな選手を呼んでいるのですか?

高橋 強さがあったり、一生懸命にプロレスに取り組んでいたり。何か琴線に触れるところがあれば、まだ実力がない新人選手でもいい。SEAdLINNNGには「苗(seedling)」という意味を込めていて、植えた種が芽を出して花をつけるように、新人選手にもチャンスを与えて、花開くきっかけになる団体になりたいと思っています。

 ――高橋さんが入門した頃の全女と違って、SEAdLINNNGでは新人にきちんと教えている?

高橋 もう引退しているんですが、元選手の南月たいようが中心になって教えています。

 ――女子プロレスに興味を持っても、試合を観に行ったことがないと、どんな雰囲気なのかわからず、足を運ぶのが不安だという人もいると思います。観客には、どんな人が多いのでしょうか?

高橋 「俺たちはプロレスを観たいんだ!」みたいな、すごく熱いお客様が多いですね。男女で言うと、男性が多いです。

 


SEAdLINNNG BEYOND THE SEAシングルチャンピオン決定トーナメント準決勝の様子。高橋奈七永選手が彩羽匠選手(Marvelous所属)に勝利し、チャンピオン決定戦に進んだ

 

 ――ちなみに、全女ではどうだったのでしょう?

高橋 歴史が35年以上あるので、いろんなときがありました。

 私は知らない時代ですが、ビューティ・ペアさん(1976~79/以下、カッコ内は活動期間)やクラッシュギャルズさん(1984~89)は、ピンク・レディーにも引けを取らないくらいアイドル的な人気があったそうです。特にクラッシュギャルズさんは女性ファンが多くて、会場にも大勢詰めかけていました。当時の映像を観ると、黄色い声援がすごいんですよ。

 そのあと、ブル中野さん(1983~97)やアジャ・コングさん(1986~)が男子の団体に参戦したときに、「なんだこの人たち。すげぇ!」となって、男性のプロレスファンを全女に連れてきたと聞いています。

 もともとは団体同士の交流はなかったのですが、バチバチの対抗戦をする「対抗戦時代」が始まったことで、男性ファンの比率がさらに上がりました。

 ――最後に、女子プロレスを観に行ったことがない人にアドバイスがあれば。

高橋 変に考えずに、とにかく会場へ飛び込んできてください。損はさせないので。チケットも3,000円からあるので、ビジネスパーソンの方なら気軽に出せる金額だと思います。

 後楽園ホールなどではビールも売っていますし、パンフレットを買って、野球を見るような感覚で気楽に観てください。プロレスは酒のつまみになりますよ。叫べる機会も普段はなかなかないでしょうから、プロレスを観ながら思い切り叫んでください。

 そして、試合が終わったら、居酒屋で語り合う。「語れるプロレス」を、SEAdLINNNGは目指しています。

 

 

《写真撮影:吉岡 晋》

著者紹介

高橋奈七永(たかはし・ななえ)

女子プロレスラー/〔株〕SEAdLINNNG代表取締役

1978年生まれ。埼玉県出身。アニマル浜口道場出身。老舗団体・全日本女子プロレス(全女)でデビュー。当時、女子プロ界最高峰のベルトと言われたWWWA世界シングル王座(現在は封印)の最後のチャンピオンとして名を連ねる。全女解散後はSUN→スターダムを経て、SEAdLINNNGを旗揚げ。2016年末には世界一危険な格闘技・ラウェイに挑戦。17年はザ・グレート・サスケとのTLCマッチで勝利。18年は大谷晋二郎との電流爆破、潮﨑豪とのシングルなど、その活動は多岐にわたる。

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