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地方の「解体業者」を世界的企業に押し上げた「たった一つの発想」

2019年01月24日 公開

神田昌典(経営・マーケティングコンサルタント)

「世界に打って出た」ことが、注目されるきっかけに

従来の自動車部品のリサイクルの仕組みは、かなり雑なものだった。部品の状態に関係なくコンテナに詰め込んで、鉄くずと同等の価格で一コンテナいくらで売られていたという。

しかし、その中には、非常に状態の良いエンジン部品なども含まれていた。だが、今までのシステムではこうした部品のリサイクルは難しい。

そこでまず行ったのは、中古の自動車部品の品質を評価する規格を作ることだった。同社が2010年に開発した「JRS(ジャパン・リユース・スタンダード)」は、英国規格協会への申請を経て、世界初の中古エンジン国際規格「PAS777」として認められたのである。

さらに、価格相場をつかむために、2014年に世界最大の自動車中古部品市場があるUAEのシャルジャで、オークションを開催。そのデータを基に、廃車部品の査定から販売までを一元管理する「KRAシステム」を構築した。

会宝産業はこのプラットフォームを国内外の同業他社に開放し、アライアンスネットワークを構築した。

 

名立たる大企業とともに、国際的な機関から選出される

この取り組みが国際協力機構(JICA)に注目され、その協力のもと、リサイクル工場をブラジルやケニアなどに設立。結果、途上国の事業者が中古部品を適正な価格で売れるようになり、市場が拡大。またたくまに世界86カ国に広がった。

ちなみに、2017年には、「ビジネスと途上国開発を同時に達成できるビジネスモデル」を生み出した功績が認められ、国連開発計画(UNDP)をはじめとした国際機関や政府が主導するビジネス行動要請(Business Call to Action)への加盟が、承認された。承認企業は、日本では資生堂、住友化学など大企業ばかり。中小企業では会宝産業が初めてだ。

リサイクルビジネスは、産業全体を身体に見立て「静脈産業」と呼ばれることがある。以前から、創業者の近藤典彦氏は自社の使命を「静脈産業の確立であり、循環型社会の創造」と考えていたが、会宝産業は、東蚊爪町というローカルな地から、その世界的ビジョンを形にしつつある。

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解体業から「静脈産業」への発想の転換 >

著者紹介

神田昌典(かんだ・まさのり)

経営・マーケティングコンサルタント、作家

上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士(MA)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済局に勤務。その後、米国家電メーカー日本代表を経て経営コンサルタントとして独立。多数の成功企業やベストセラー作家を育成し、総合ビジネス誌では「日本のトップ
マーケター」に選出。2012年、大手ネット書店の年間ビジネス書売上ランキング第1位。ビジネス分野のみならず、教育界でも精力的な活動を行っている。
主な著書に『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)、『ストーリー思考』(ダイヤモンド社)、『成功者の告白』(講談社)、『非常識な成功法則』(フォレスト出版)など多数。
アルマ・クリエイション株式会社代表取締役。一般社団法人Read For Action代表理事。

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