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誰でも数学が得意になる、3つのトレーニング方法

2019年03月18日 公開
2023年03月10日 更新

西成活裕(東京大学先端技術研究センター教授)

「身体」を使うと数学がわかるように!?

では、なぜ数学でつまずくかというと、数学は根気のいる学問なので、教わるほうに集中力が足りないという問題はあります。ただ、それ以上に問題なのは、教えるほう。学校で人気があるのは脱線する先生ですが、数学は機械的に教科書を進めていく先生が非常に多いのです。

先ほどお話ししたように、数学は現実の課題と密接に関わっています。だから「たとえばこの考え方はここに使われている」と脱線してもいいのに、先生方の「例え力」が足りず、公式を詰め込んで終わりになってしまうのです。

子供に興味を持ってもらうためには、算数や数学を「身体を使って勉強する」方法がいいのではないかと思います。

私は小学生を対象に、ニコニコマークの書いたプリントを使って、「これをグランドいっぱいに書こう」という授業をやりました。中学校2年生で習う「相似」を身体で覚えるためです。手拍子で分数を教えたこともあります。音符の計算は完全に分数の計算ですから、手拍子しながら教えれば理解も早いのです。

本当は現場の先生方もいろいろ試してみたいのかもしれません。しかし、学習指導要領で教えるべきことが決められていて、脱線しにくい状況にあります。私が見たところ、中学の教科書にはあまり重要ではない部分も多く含まれています。それを省いて、重要な骨格部分をじっくり教えていけば、数学嫌いの人は減るかと思うのですが……。

 

投資のリターンは数学でいう「平均」

教育改革はこれからに期待するとして、問題はすでに数学嫌いになってしまった大人が、どうやって数学的思考を身に着けるかでしょう。

人は何かメリットがあれば、勉強しようという気になるものです。例えば、「数学ができるとモテる」とか……。私は小学生のときに算数の知恵(辺の長さが3:4:5の三角形の一角は直角になる)を使って、グランドに直角で線を引いたことがあるのですが、そのとき女子から「西成君、すごい!」と言われて、算数が大好きになりました(笑)。

大人の場合、わかりやすいのはお金でしょうか。ですから、投資に絡めて数学を学ぶのもいいかもしれません。例えば、投資の「リターン」は、数学でいうと「平均」です。いろいろと変動する中で平均していくら儲かるのかを計算して、リターンが高い低いと言っているわけです。一方、リスクは「分散」で、平均からどれだけズレるのかを示しています。平均や分散を授業で習って理解できなかった人も、実際の投資を念頭に置けば、リアルに感じられると思います。

 

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著者紹介

西成活裕(にしなり・かつひろ)

東京大学教授

1967年、東京都生まれ。東京大学先端科学技術研究センター教授。東京大学工学部卒業後、同大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。博士(工学)。ドイツのケルン大学理論物理学研究所などを経て、現職。専門は数理物理学、渋滞学。著書に、『渋滞学』(新潮選書)、『とんでもなくおもしろい仕事に役立つ数学』(角川ソフィア文庫)など。

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