THE21 » キャリア » 丸和繊維工業「海外生産・下請け体質から脱し、日本製の自社ブランドで高付加価値を」

丸和繊維工業「海外生産・下請け体質から脱し、日本製の自社ブランドで高付加価値を」

2019年03月07日 公開
2022年10月25日 更新

【経営トップに聞く】深澤隆夫(丸和繊維工業社長)

 

高品質が求められるニッチな市場を狙っていく

丸和繊維工業
本社1階にある直営店舗

 

 ――動体裁断をしているメーカーは、他にないのですか?

深澤 スポーツウェアのメーカーなどで一部ありますが、ニットのドレスシャツでは当社だけです。そもそもニットのドレスシャツは他に作っているメーカーがそれほどなかったので、そこを狙いました。

 ――OEMの商品にも、動体裁断は使われているのでしょうか?

深澤 中澤先生にお支払いするロイヤリティの契約を結んでいただけるのであれば、使っていきたいと思っています。ただ、原価が上がってしまうので、真剣に検討していただけるアパレル企業は少ないのが現実です。

 ――INDUSTYLE TOKYOの販路は、どうなっているのでしょうか?

深澤 今は自社のインターネット販売と直営店舗、全国の百貨店での販売が中心です。

 百貨店については、トップのお店で売っていただきたいという想いで、最初の半年間は伊勢丹メンズ館だけで扱っていただきました。委託ではなく、買い取りです。

 しかも、「セールは絶対にしないで1万8,000円で売ってほしい。販売員も出せない」というお話をしました。初めは「せいぜい1万1,000円くらいですよ」と言われましたが、結局は1万5,000円で収まりました。私たちは作るプロ、伊勢丹は売るプロで、お互いプロ同士で責任を持った商売をしようとスタートしました。

 セールというのは、消費者にとっては嬉しいのかもしれませんが、昨日買ったお客様に損をさせるわけですから、おかしいと思うんです。社員が一生懸命作った商品が買い叩かれるのも見ていられない。

 販売員の女性たちに当社に来ていただいて、試着もしていただきました。「すごく良かった」という実感をお客様に伝えていただいて、売行き以上に嬉しかったですね。

 半年が過ぎてからは、他の百貨店にも販路を広げました。その年の百貨店バイヤーズ賞の話題賞をいただくこともできました。

 ――INDUSTYLE TOKYOを着ているのは、どんな人なのでしょうか?

深澤 一般のビジネスパーソンが多いです。あとは、先ほどお話ししたバーテンダーの方のように、各界のプロですね。ハイヤーの運転手やビリヤードの選手、ダンスの先生などにも気に入っていただいています。

 ――反応はいかがですか?

深澤 リピーターになっていただける方が多いです。実際に着てみていただかないと伝わらないのですが、試着すると着心地が良いので、笑顔になっていただけるんですよ。

 その笑顔を、実際に商品を作っている社員に見てほしいと思って、本社の1階に店舗を作ったとき、専門の販売員を置かずに、社員に販売をしてもらうことにしました。お客様の笑顔を見て、自分たちが作っている商品がこんなに評価されているんだということを肌で感じてもらい、自信と誇りを持ってほしかったのです。

 誇りを持つと、もっと着心地の良いものを作りたいと思うようになって、縫い方を工夫し、新しい技術が生まれます。そういう流れが自然とできてきました。

 商品を作りながら販売するとなると、店を開けられる時間が限られてしまって、平日の12時から夕方5時半までしか営業していません。土日は休みです。だから、お客様に「いつ買いに行けばいいんだ」とお叱りを受けることもあるのですが、こういう想いでやっていますということを説明すると、納得していただけます。

 今はお客様が増えてきたので、予約制ですが、月に1回、土曜日に店を開けたり、毎週水曜日は夜も営業したりしています。

 ――今後の展開については、どう考えていますか?

深澤 大きなマーケットを取りに行くのは、私たちには難しいと思っています。けれども、ニッチなマーケットはたくさんあります。

 今、始めているのは、車椅子の方向けのジーンズです。知り合いに筋ジストロフィーの方がいて、彼によると、車椅子の方は400万人くらいいるのだそうです。その中には、家に引きこもってしまっている方も多い。もっと街に出てもらうために、外に出たくなるような格好いいファッションを作りたいということだったので、協力することにしました。今年、販売開始する予定です。

 自分でも着たり脱いだりしやすく、介護をする方も着せたり脱がしたりしやすいよう、様々な機能を搭載しています。下半身が麻痺している方は、縫い目が身体に食い込んでも気がつかず、知らないうちに蓐瘡ができたりもするんです。そうならないような縫い方は、まさに当社が得意とするところです。ポケットの位置や向きも、車椅子に座りながらケータイを入れやすいように、普通のものとは変えました。

 昨年、山形県で開催されたパラスポーツカーニバルで車椅子の方々に試着していただくと、皆さん、いい笑顔になってくれましたね。ファッションは人を幸せにしたり元気にしたりする力を持っているんだなと、改めて実感しました。

 あとは、他社とのコラボも進めていきたいと思っています。既に、ヨウジヤマモトとINDUSTYLE TOKYOのダブルネームで、世界で販売している商品があります。ヨウジヤマモトも以前から動きやすさを重視していたので、動体裁断に興味を持っていただいたのです。 昨年の11月には、イタリアのブランドとのダブルネームのブレザーの輸出もしました。もっと認知度を上げることで、こうした様々な展開が、どんどん出てくるだろうと思います。

《写真撮影:まるやゆういち》

著者紹介

深澤隆夫(ふかさわ・たかお)

丸和繊維工業〔株〕代表取締役社長

1960年、東京都生まれ。83年、丸紅〔株〕入社。織物貿易部にて、大阪本社やサウジアラビアなどで勤務。91年、丸和繊維工業〔株〕入社。営業部長、副社長などを経て、2001年より現職。

THE21 購入

2024年5月号

THE21 2024年5月号

発売日:2024年04月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

サマリー「スマホ収納サービスとして荷物を預かるだけでなく、データとしても活用する」

【経営トップに聞く】山本憲資(サマリー社長)

太陽ホールディングス「市場占有率5割のソルダーレジストに留まらず、総合化学企業へ」

【経営トップに聞く】佐藤英志(太陽ホールディングス社長)

フュービック「上司ではなくお客様へ向くために、査定をしない会社を作る」

【経営トップに聞く】黒川将大(フュービック社長)

<連載>経営トップに聞く

×