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「働き方改革」と「逼迫する需給バランス」がオフィスに与えている影響とは?

2019年03月30日 公開
2023年03月10日 更新

池野衛(MACオフィス社長CEO)

移転すべきか、否か。比較検討するサービスを提供

 

 ビジネスパーソンが日々仕事をするオフィスについて、今、二つの大きな流れがある。一つは、より働きやすい環境を作ろうというもの。もう一つは、オフィスビルの空室率が低く、移転が難しくなっているということだ。これらを背景に、従来はなかったオフィスコンサルティングサービスが登場している。それが、オフィスデザイン会社・〔株〕MACオフィスの「オフィスの移転と残留の比較検証サービス」だ。同社社長CEOの池野衛氏に話を聞いた。

 

 筆者は、取材のために、様々な企業のオフィスを訪ねる機会があるが、従来とは違う作り方のオフィスが増えているのを感じている。

 例えば、役職によって座る席が決まっているのではなく、フリーアドレスにしている。また、会議室を完全に仕切った閉鎖空間にせず、オープンにしている。これらは、社内のコミュニケーションを活発化させることを主な目的とする施策だ。ペーパーレス化を進めることで業務効率を向上させ、収納スペースを減らしているオフィスもある。

 多様な働き方を認める「働き方改革」を政府が進めていることもあって、リモートワークを認めてオフィス内の席を減らしたり、貸し会議室を活用して社内の会議室を減らしたりしている企業も増えている。

 このように働き方を変え、オフィスデザインを変えると、空間の使い方が効率化され、以前よりも小さい面積で仕事ができるようになる。つまり、オフィスの適正面積が小さくなるのだ。しかし、このことに気がついていない企業が多いと、池野氏は話す。

 

「オフィスの移転を機に、オフィスデザインを変えて、より働きやすい環境を作るケースが多いのですが、移転を考える企業の多くは、オフィスデザイン会社よりも先に、まず不動産仲介会社に連絡を取り、移転先の候補となる物件を紹介してもらっています。その際、条件として提示する面積に、きちんとした根拠がないケースがほとんどです。『今のオフィスが手狭になったから、もっと広いところへ』というくらいの感覚のことが多い。

 そして、物件を決めてから、オフィスデザイン会社に連絡をする。そのため、実は、移転をせずにオフィスデザインを変えるだけのほうが、コストが少なくて済んだ、という結果になっていることが多いのです」(池野氏)

 

 先にオフィスデザイン会社に連絡をすればいいのではないか、と思われるかもしれないが、「仕事になるかどうかわからない状態では、ほとんどのオフィスデザイン会社は対応してくれない」と池野氏。オフィスデザイン会社に仕事を頼むということは、今のオフィスから「移転しない」と決めるに等しいわけだ。

 もちろん、不動産仲介会社に仕事を頼むということは、「移転する」と決めるに等しい。「移転する場合」と「しない場合」を比較検討してから、移転するかどうかを決めるのが、あるべき姿だろうが、従来はそれができなかった。

 そこでMACオフィスが始めたのが、「オフィスの移転と残留の比較検証サービス」である。

 

「このサービスでは、『移転する場合』と『しない場合』の二つのシナリオをお客様に示します。両者を比べて意思決定をするのは、お客様です。

 当社は、まず適正面積を調べ、移転先の候補となる具体的な物件を探します。移転先候補の物件を持っている不動産会社は、入居してほしいので、工事や什器など、移転にかかる費用の補償や、指定業者以外の業者による工事を認めるなど、お客様にとって有利になる条件を提示してきます。

 一方、今のオフィスを持っている不動産会社は、入居者に出て行ってほしくないので、移転を検討しているとわかれば、賃料の引き下げなどを提示してきます。適正面積が今よりも小さいとわかれば、そのぶん、賃料を下げる交渉もできます」(池野氏)

 

 今年2月時点で、東京都心のオフィス空室率は1.78%。需給のバランスが取れているとされる5%を大幅に下回っている。そのため、移転先の物件を探すのが難しくなっているが、適正面積が現状よりも小さいとわかれば、候補に挙がってくる物件が増える。

 また、空室率が低いために、契約更新の際に賃料の引き上げを要求されることが一般的になっているが、具体的な移転先を検討していれば、交渉力を強めることにもなる。

 

「このサービスの目的は、『働く環境の最適化』です。当社では、これをWEO(Work Environment Optimization)と呼んでいます。オフィスで働く人のため、この考え方が広く普及することを願っています。

 このサービス自体は、200坪以上のオフィスを対象に、完全に無料で提供しています。利益は後からついてくるからです。すぐには当社にオフィスデザインの仕事をいただけなくても、いざデザインを変えるときには、最初に当社にご連絡をいただけるはずですから」(池野氏)

 

 自社ビルを売却して賃貸のオフィスに移るシナリオの提示も行なっている。オフィスをどうするかは、企業の財務において重要な問題。その意味で、オフィスコンサルティングは経営コンサルティングの一部だとも言える。

著者紹介

池野 衛(いけの・まもる)

〔株〕MACオフィス代表取締役社長CEO

1971年生まれ。大阪府出身。96年に両親が営む文具店を継承し、コピー機・FAX・パソコンなどのOA機器の販売に事業領域を広げたのち、さらなるイノベーションを図り、オフィスコンサルティング事業のビジネスモデルを構築する。2009年、スターティア〔株〕よりオフィスファシリティ事業を譲受、同事業をさらに拡大し確立に導く。12年、北京大学Executive MBA修了。

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