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人類は「海から追い出された敗者」の子孫だった?

2019年04月01日 公開

稲垣栄洋(生物学者)

過酷な「汽水域」に追いやられた弱者たち

弱い魚たちは、どうしたのだろう。

食べられる一方の弱い魚たちは天敵から逃れるように、川の河口の汽水域に追いやられていく。海水と淡水が混じる汽水域は、浸透圧が異なるため、海に棲む天敵も追ってくることはできないのである。

しかし、海を棲みかとしていた魚たちにとって、そこは過酷な環境であった。

逆境を乗り越えて戦いに敗れ、追いやられた弱い魚たちは、過酷な環境である汽水域へと逃れ行く。しかし、そこは魚が生存することができない過酷な環境である。

幾たびも幾たびも挑戦しても、多くの魚たちは汽水域の環境に適応することができずに死滅していったはずである。

汽水域で最初に問題となるのは浸透圧である。

塩分濃度の濃い海で進化を遂げた生物の細胞は、海の中の塩分濃度と同程度の浸透圧になっている。もし、細胞の外側が海水よりも濃い塩分濃度であれば、細胞の中の水は細胞の外へと溶け出してしまう。そして、もし細胞の外側が薄い塩分濃度であれば、その塩分濃度を薄めるために、水が細胞の中へと侵入してきてしまうのである。

そこで魚たちは塩分濃度の薄い水が体内に入ってくることを防ぐために、うろこで身を守るようになった。さらには、外から入ってきた淡水を体外に排出し、体内の塩分濃度を一定にするために腎臓を発達させたのである。

 

「骨」は、汽水域で生きるために生み出された

それだけではない。海の中には生命活動を維持するためのカルシウムなどのミネラル分が豊富にあるが、汽水域ではミネラル分が不足してしまう。そこで魚たちは体内にミネラルを蓄積するための貯蔵施設を設けた。それが「骨」である。骨は体を維持するだけでなく、ミネラル分を蓄積するための器官でもあるのである。

こうして生まれたのが、骨の充実した「硬骨魚」である。

これだけの変化を起こすために、いったい、どれくらいの時が必要だったのだろう。いったい、どれくらいの世代を経たことだろう。世代を超えて何度も何度も挑戦していく中で、魚たちは逆境を乗り越え、祖先からの悲願であった汽水域へと進出を果たすのである。

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著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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