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「夫の転勤による離職」をゼロに!広がる「異業種間転籍制度」とは?

2019年04月04日 公開
2023年03月10日 更新

角道裕司(アイザワ証券専務取締役)

人手不足時代。人材確保の「切り札」に

国内の企業で過去3年間、配偶者の転勤を理由にした正社員の退職は、33.8%が「あり」と答えており、1000人以上の大企業だと57.6%と6割にも上るといいます(2017年6月、労働政策研究・研修機構調発表)。そのほとんどのケースでは妻が仕事を辞め、夫の転勤先に転居しています。

いったん正社員の職を離れてしまうと、再びキャリアを形成することは難しくなります。 こうした現状を変え、転居先でもこれまで積み上げたキャリアを生かす仕組みができないかと考え始めました。

転籍制度を活用する企業側の狙いの一つは人材確保です。どの業界も採用環境が厳しい中、信頼関係のある提携先から優秀な社員を採用することができます。異業種ですが金融の知識を生かし合うことができるので、原田さんの場合も、銀行勤務時代に培った金融の知識や接客術を証券会社でもいかすことができています。

 

新商品や企業同士の連携にも

また、異業種から社員を受け入れると職場の風通しが良くなり、これまで気づかなかったサービスや商品の価値に気づくこともできます。当社では前職の人脈をいかしたビジネスマッチングが生まれた例もあります。

人材を送り出す側にもメリットがあります。女性が就職先、転職先を探すとき、こうした制度があると重要なポイントになりますし、社員の満足度が上がります。また、当社の転籍制度は可逆性のある形に設計しているため、提携先に転籍した社員が戻ってきてくれる可能性があります。

提携している企業同士が、転籍した社員を通じてより強固に連携できるという側面もあります。

 

鉄道会社や地銀も。ますます広がる連携の輪

業界内で連携し、離職を防ぐネットワークは広がってきています。その一つが、2015年4月に、横浜銀行や福井銀行など全国の地方銀行64行で始めた「地銀人材バンク」。

支店網が限られる地銀で働く女性は、配偶者の転勤が決まると、「退職か別居生活か」の二者択一を迫られてきたため、転居先の地方銀行で再雇用しようとできた制度です。現在、約120件の実績があり、昨夏からはシニアの再雇用にも対象を広げています。

日本生活協同組合連合会は17年4月に同様の制度を設立。5件の採用に結びつけました。全国信用金庫協会もこうした仕組みを取り入れています。

小田急電鉄、京王電鉄など私鉄10社と東京地下鉄(東京メトロ)も、18年6月に配偶者の転勤など家庭の事情で営業エリア外に引っ越す職員を相互に受け入れる「民鉄キャリアトレイン」を設立しました。鉄道業務には共通点が多く、社員はライフイベントに左右されずに鉄道会社でのキャリアを継続できるようになりました。

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著者紹介

角道裕司(かくどう・ゆうじ)

アイザワ証券専務取締役CIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)・静岡大学客員教授

奈良県出身。昭和57年大阪大学卒、同年富士銀行入行。人事部、証券部、資金証券営業部等を経て、グローバル企画部統合企画室でみずほ統合PJ担当。その経緯で勧角証券(現みずほ証券)へ出向、経営企画部長、米国駐在(ボストン)特担部長を経て、みずほ銀行証券部長、同証券・信託業務部長等を歴任、みずほの「銀・信・証」連携企画/推進を担う。平成22年6月、藍澤證券常務執行役員、同29年に専務取締役戦略企画本部長を経て現職。

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