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本気で働き方改革を進めない、サラリーマン社長の罪

2019年04月13日 公開
2023年03月07日 更新

高岡浩三(ネスレ日本代表取締役社長兼CEO)

戦略なくして働き方改革は進まない

――働き方改革をするには、先進国モデルへ脱皮できるよう、「経営改革」をしなければならない、と高岡氏は言う。

 「具体的に言えば、まず勝つ戦略を立てること。それを実行して、会社の業績を上げて体力をつけることが不可欠です。資金で余裕を作ることで、残業を減らしながら給料も減らない働き方改革を実現できるのです」

――まさにそのケーススタディといえるのが、ネスレ日本だ。高岡氏は社長に就任後、勝つ戦略を立てることに全力を傾けた。

 「イノベーションを起こせれば、市場における競争優位性を保てるので、商品単価を上げることができます。つまり、少ない労働力で高収益を上げることができるのです。そのイノベーションは、顧客が認識していない問題を発見し、解決することで起こるもの。ですから、私は『顧客が認識していない問題は何か』を徹底的に考え抜きました」

――そうして生まれた商品が、『ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ』や『ネスカフェ ドルチェ グスト』といった家庭用のコーヒーマシンだ。

 「就任当時、私は、コーヒーの家庭内消費は今後減る一方だと予想していました。1~2人の世帯が増えているので、家族4~5人でコーヒーを飲むこともなくなり、共働きで忙しいので、朝食用にゆっくりとコーヒーを落としている時間もない。これでは減るのは当然ですよね。

 しかし、コーヒーを飲む需要は確実にあるはずです。そこで考えたのが、お湯を沸かさなくても、ボタンを押せば、簡単に1杯のおいしいコーヒーができあがるマシンです。これが支持され、商品の単価も引き上げられました」

――また、「自宅で飲む時間が無くても、オフィスに来たら飲みたくなるのでは」と考え、生み出したサービスが、「ネスカフェ アンバサダー」。オフィスに家庭用のコーヒーマシンを無料で設置し、1杯30円程度でコーヒーが飲めるというサービスだ。これも好評で、会員数は40万人を突破。1年間に10億杯のネスカフェが職場で飲まれるようになった。

 「こうして業績をまず大きく伸ばしたからこそ、人事制度改革に着手できるようになりました。毎年、給料を2~3%ベースアップさせながら、徐々に残業を減らしていった。その結果、従業員に負担をかけずに、残業の削減を実現できたわけです」

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著者紹介

高岡浩三(たかおか・こうぞう)

ネスレ日本〔株〕代表取締役社長兼CEO

1960年、大阪府生まれ。83年、神戸大学経営学部卒業後、ネスレ日本〔株〕に入社。各種ブランドマネージャーを経て、「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させる。後に『ネスカフェ アンバサダー』など新しいビジネスモデルの構築を通じて、高利益率を実現している。著書に『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)など。

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