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マーケティングはデータ全盛の時代。だからこそ人間がするべきことがある

2019年06月18日 公開
2023年03月02日 更新

逸見光次郎(オムニチャネルコンサルタント)

 

正しいのはデータより現場を知る店頭スタッフ

 しかし、データが大量に収集できるようになったものの、それを使いこなせていない企業も多くあります。

 そう言うと、すぐに「データサイエンティストが不足している」という話になりがちなのですが、データを分析して、その結果を鵜呑みにするのは危険です。データが本当の顧客の行動を反映していないことが、往々にしてあるからです。

 例えば、私が以前勤めていたキタムラでは、七五三や小学校入学などの記念日に写真を撮影する『スタジオマリオ』を運営しています。その顧客は、Tカードのデータによると、子供の母親である20~40代の女性が中心でした。

 では、その人たちを対象にした広告メールを送れば効果的かというと、そんなことはありません。本当にお金を出しているのは、子供の祖父母だからです。広告メールを母親たちに送るにしても、プリントアウトして祖父母に渡してもらえるような体裁にしたり、紙のDMを送るなどの工夫が必要です。

 こういったことは、実際に店頭に立っているスタッフにとっては、当然のことです。しかし、オフィスでデータを分析しているだけでは気がつきません。

 データが示すものと店頭スタッフの経験知が一致しない場合、正しいのは常に店頭スタッフだと、私は考えています。データをもとに施策を打つときは、現場の声とすり合わせることが不可欠です。

 さらに言えば、AIが進化すれば、データ分析の担当者は必要なくなるでしょう。しかし、肌感覚で顧客のことを理解している店頭スタッフの重要性は変わりません。

 ネット通販が普及していますが、店舗はこれからも重要な位置を占め続けます。ネットで商品を注文しても、受け取りは、最寄りのコンビニなど、店頭でしたいという人が多いからです。その最大の理由は、受け取るタイミングを自分で決められること。買い物の利便性を上げるためには、顧客の可処分時間の有効活用という点にも着目するべきです。

 

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著者紹介

逸見光次郎(へんみ・こうじろう)

オムニチャネルコンサルタント

1970年、東京都生まれ。学習院大学卒業後、〔株〕三省堂書店を経て、99年にソフトバンク〔株〕に入社、イー・ショッピング・ブックス〔株〕(のちの〔株〕セブンネットショッピング)立ち上げに参画。2006年、アマゾンジャパン入社。07年、イオン〔株〕入社。11年、〔株〕キタムラに入社し、オムニチャネル推進に従事。その後、〔株〕ローソンを経て、独立。著書に『デジタル時代の基礎知識「マーケティング」』(翔泳社)がある。

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