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コスパ「リアルでもネット上でも、コンテンツが好きな人が集まって楽しむ場を増やす」

2019年07月07日 公開
2022年10月25日 更新

【経営トップに聞く】松永芳幸(コスパ社長)

 

創業期に味わったのは「生みの苦しみ」より「生みの楽しみ」

 

松永芳幸

 

 ――コスチュームの製造・販売をするようになったのは、いつからですか?

松永 コスプレイベントを始めて半年後くらいには、渋谷の道玄坂に小さな店舗を構えました。日本初のコスプレ専門店です。

 ――そのときには、コンテンツホルダーとのライセンス契約もしていた?

松永 お客様がコスチュームを作るのをお手伝いするフルオーダーのサービスと、ゲームメーカーと契約した商品の販売をしていました。ゲームショウのコンパニオンに、ゲームに登場するキャラクターのコスチュームを着せてプロモーションをしたほうが、より効果的だというプレゼンをして、コスチュームを提供させていただく代わりに、商品化もさせていただいたんです。当時のゲームショウのコンパニオンは、モーターショーと同じような格好をしていましたから。

 ――店舗の売上げは当初から順調でしたか?

松永 商品化できるタイトルが日ごとに増えていって、新しい商品ができると買っていただける、という状況でした。買える場所が、そこしかなかったので。

 ――ゲーム以外に広げていったのは、いつ頃から?

松永 その年の暮れくらいから、アニメにも広げ始めました。たまたま、店舗を開いた年に、『新世紀エヴァンゲリオン』のテレビ放送が始まったんです。当初はマニアからの批判も多くて、それほど人気があるタイトルではなかったのですが、当社のスタッフが「面白いからTシャツを作ってみたい」と言い出しました。第3使徒サキエルというキャラクターの顔なら白黒1色でデザインできるということで、コンパスと定規で丸と三角を厚紙に描いて、それを切り抜いて版下にして作りました。

 ――売れましたか?

松永 それがですね、大した量は作らなかったのですが、どこかに卸そうとしても、買っていただけるところがなかったんです。自社店舗でちょろちょろ売れるだけでした。

 ところが、ゲーム誌で店舗を紹介していただいたり、ファッション誌のコラムで商品を取り上げていただいたりした途端に、全国のアパレルショップから問い合わせが殺到しました。全国の、街で一番お洒落なセレクトショップで販売していただけることになったのです。

 それで一気に販路ができたのですが、他のタイトルの商品を提案しても、まったく反応がない。それだけエヴァンゲリオンが特別だったんですね。ファッションの売り場に合ったキャラクターを探して、色々やってみるのですが、うまくいきませんでした。

 ただ、ゲームのほうは、格闘ゲームだけでなく、『ときめきメモリアル』など、萌え系のハシリとなるタイトルも人気になって、手応えをひしひしと感じていました。

 今から振り返ってみると、事業を継続させるための計画を立てたこともありませんでしたし、資金調達など、キャッシュフローのこともまったくわかっていませんでした。でも、始めてしまった以上、やっていくしかない。卸せる先がないので自社店舗を増やしたり、タイトルごとのお客様の属性に応じて提案する売り場を変えたりして、ひたすら手探りを続けていました。

 ――売上げが厳しい状況の中で、コンテンツホルダーとのライセンス契約のほうは、問題なかったのでしょうか?

松永 MLBのような海外のライツアウトのシステムと、当時の日本のアニメのライツアウトのシステムは、全然違っていました。簡単に言うと、当時の日本のアニメでは、「玩具やアパレルの権利は、スポンサーになっているこの企業に」というように決まってしまうと、乳幼児向けでも大人向けでも、すべての権利をその企業が持ってしまうんです。アイテムや年齢層などの属性によってセグメント化していませんでした。

 ゲームについては、ライツアウトの商習慣があまりなかったので、特にコスチュームのライセンスは「どうぞ、どうぞ」という感じで、かえって契約しやすかったですね。

 それで、ゲームでの実績をもとに、海外のようにセグメント化してライツアウトしたほうが収入が増えるという説明もしながら、「Tシャツの権利だけでいいので」「非独占契約でもいいので」などという説得を、1件1件、して回りました。

 ――苦労したのですね。

松永 苦労だとは思いませんでした。「生みの苦しみ」よりも「生みの楽しみ」のほうが大きかったというか。

 ――経営が軌道に乗ったのは、いつ頃ですか?

松永 最近です(笑)。ずっと走りっぱなしですね。

 ――販路で言うと、今も自社店舗が多いのでしょうか?

松永 少なくはないですが、卸のほうがずっと多くなっています。また、リアル店舗よりも通販サイトのほうが伸びる傾向にあります。

 卸先のリアル店舗については、売上げ状況をしっかりと確認して、売れるだけの数を発注していただき、仕入れすぎないようにしていただいています。きめ細かい売り場作りをして、お客様を店舗ごとに積層していけるようなスタイルを推奨しています。

 ――世の中にキャラクター・アパレルやグッズの売り場が増えたから、卸先が増えたということでしょうか?

松永 そうですね。特に、インターネットが普及してからの伸び具合がすごいです。ブロードバンドによってコンテンツ自体が広まる速度も速くなりましたが、それ以上に、コンテンツが好きな人たちのコミュニティが広がるようになったことの影響が大きい。創業したときは、インターネットが普及して、こんなにコミュニティが大きくなるとは、まったく予想できませんでした。

 

著者紹介

松永芳幸(まつなが・よしゆき)

〔株〕コスパ代表取締役社長

1962年、福岡県生まれ。アパレル業界でデザイナーズブランドのサポート業務、パリコレの企画室、メジャーリーグの商品企画などを経験したのち、訪米してライセンスビジネスを見聞。94年からコスチュームプレイダンスパーティを各地でプロデュースし、年間約10万人を動員。95年、〔株〕コスチュームパラダイス(現・〔株〕コスパ)を設立。

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