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発想がイマイチな人は「ある勘違い」をしている



2019年10月09日 公開

野口悠紀雄(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授)

 

創造的剽窃行為こそが重要

 物理学の方法論も、基本的に同じものです。つまり、「古いアイディアを再利用する」のです。例えば、水素原子の古典的なモデルは、陽子の周りを電子が回るというものです。これは、地球の周りを月が回るモデルを借りてきたものです。相互作用は重力ではなく電磁気力なのですが、このモデルは、水素原子のさまざまな挙動をうまく説明します。

 ローレンス・クラウスは、「今世紀における(物理学の)重要な革命のほとんどは、古いアイディアを捨てることによってではなく、何とかそれと折り合おうとした結果得られたものだ」と述べています。

 そして、その例として、アルベルト・アインシュタインの相対性理論が、それまでの物理学をできるだけ維持するという立場から作られたことを挙げています。ガリレオ・ガリレイの相対性原理(等速運動する観測者の間で物理法則は同一)とジェームズ・クラーク・マクスウエルの理論(どの観測者にとっても電磁波の伝播速度は同一)を両立させるためには、時間や距離が変化するという考えを持ち出さざるをえなかったのです。

 学界の正統的見解に対して「一人ぼっちの反乱」といわれた独創的な説を提示し、1978年にノーベル化学賞を受賞したピーター・ミッチェルは言います。

「一人一人の人間は他の人間の肩の上に立っています。(中略)だから、あまりにオリジナリティを主張するのは間違ったことなのです。(中略)だれ一人として考えていなかったような領域について、何か貢献をするということは考えられません。私はそんな類のアイディアがあるとは思えないのです」

 そして、「若い研究者が心がけるべきことは、最小の変革ですむように考えることだ」といいます。

「古いアイディアを剽窃して何にでも使ってみよ」「新しい問題をすでに解決済みの問題に焼き直せ」。クラウスは、これこそ最先端の現代物理学まで連綿と続く物理学の基本的方法論だと断じ、こういいます。

 新発見がなされるとき、いつも中心的役割を果たすのは抜本的に新しいアイディアである―こんな言葉を信じている人もいるのではないだろうか。しかし、本当のことをいえば、たいていはその逆なのである。古いアイディアは生き延びて、あいかわらず多くの実りをもたらしてくれることが多い。
 (中略)
古いアイディアの焼き直しが毎度のようにうまくいったので、物理学者達はやがてそれに期待するようになった。新しい概念もたまには登場するけれど、その場合でも、既知の知識の枠組みからむりやり押し出されるようにして生まれてきたものにすぎない。物理学が理解可能なのは、まさにこの創造的剽窃行為(creative plagiarism)のおかげである。

 

ポイント 物理学では、「新しい問題をすでに解決済みの問題に焼き直せ」というのが基本的な方法論。

 

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著者紹介

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授

1940年、東京都生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イェール大学Ph.D(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年より現職。著書に、『「超」整理法』(中公新書)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)など、ベストセラー多数。

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