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「安請け合いしてほったらかす」究極のFtoF商法(ケニア2)

2019年10月09日 公開
2020年04月07日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(47)石澤義裕(デザイナー)

「お得意さん」すら既読スルー

フィクサーの返事を期待していたらビザが切れそうなので、エジプトは諦めました。

ジブチにします。

自衛隊が海賊対策に営業所を置いていますから、いい船がありそうです。

一路、ジブチへ。

ところが進路を北に向けたとたん、車の水温警告灯が点灯しました。

親兄弟以上に運命をともにしている愛車の声なき声ですが、すみません、車のこと、ぜんぜんわかりません。どこか痛いところがあるんですかね?

助けてあげたいのだけれども、助けてあげられない……、というか、誰か助けてください。

警告灯ですから、ほっとけば必ず不幸になります!

ケニアから日本まで、まだ8万kmもあるし。

馴染みのメカニックに緊急連絡しました

「Help me!」

……………………。

……………………。

……………………。

待てど暮らせど、既読スルー。

この2ヶ月間に何度も車を修理して大金を払っている「月間売り上げMVP」を獲得したかもしれないボクらにしても、この仕打ちです。

お金を払うたびに親友のように心を通わせたような気がしていましたが、Face to Faceでないと「How are you?」に返事もくれないのです。


さすがケニア、野良象です

 

北へ向かうと叫びだす車?

ビジネスライクなF to F商法に涙しながらハンドルを握っていたら、今度はクラッチが騒ぎ出しました。

踏むたびに、きゃややんきゃややんと泣きたてます。

どう贔屓目に聞いても、尋常じゃないです、この音。

このまま、警告灯とクラッチの絶叫を無視して走り続ければ、必ずやエチオピアの山中で故障することでしょう。

すでに南スーダンの自衛隊は帰国してしまったし、海賊専門のジブチ隊が山岳救助してくれるとは思えません。

南へ下って、近場のモンバサ港に向かうことにしました。

そしたらですね、あら不思議。

警告灯が消えて、哭きのクラッチも心持ち静かになりました。

車にも自然治癒力があるもんだね、じゃあ、やっぱりジブチへ行きましょう!

なんてことを呟いたら、またしても警告灯とクラッチの絶叫。

しかもキィィィキィィィと、怪鳥ロプロスの雛鳥まで加わりました。

ジブチを目指すと体調不良になり、モンバサに向かえば静かになる。

その露骨な態度からすると、相棒の軽自動車は、もうアフリカを走りたくないようです。

わかりました!

やっぱり近場のモンバサ港に行きましょう!

でもですね、モンバサの船会社はそうとう手強いです。

以前、ヨーロッパ行きの船はありますか?とメールしたことがありまして、

「Of course!」

秒速で返信が来ました。

次に、スケジュールと見積もりを訊いたら、なしのつぶて。

何通メールしても返事なし。

どうしたことかと、わざわざ500kmもドライブして事務所を訪ねたら、

「ああ、何度もメールを送ってきた日本人ね」

「不明点があったから、ほっといたわよ」

顔も見たくないほどに徹底したF to Fなのです。


愛想のいい守衛。門を開け閉めするだけで、12時間勤務。いつも暇そうです

著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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