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「年収700万円くらいなら…」世間知らずな転職希望の大企業ミドル社員たち

2019年12月04日 公開

前川孝雄(FeelWorks代表取締役)

 

大企業から中小企業への転職は、年収大幅ダウンを覚悟する

 典型的なのが、転職後の給料に対する認識です。例えば、大手に勤務する年収800万円の中高年サラリーマンの相談を受けたときのことですが、希望年収を尋ねると「今と同じくらいが希望ですが、100万円ダウンの700万円くらいなら」という答えが返ってきました。しかし、彼の実績・スキルでは、常識的に考えて700万円なんていう金額は到底望めません。

 800万円というその時点での年収は、「初任給は育成してもらえる代わりに低く抑えられるものの、後払いで給与が上がっていく年功序列システム」があるからこそ得られているものです。決して現時点のその人自身の能力・スキルに応じた対価ではありません。

 大企業という恵まれた環境を飛び出すなら、改めて自分の市場価値を見つめ直し、それに見合った年収額を検討しないといけないはずです。この視点がすっぽりと抜け落ちているんですね。

 今、日本企業で働く人の約4割は年収300万円以下です。大企業から中小企業への転職を考えるなら、50歳前後という年齢であっても、よほどのハイパフォーマーでなければ、年収300万円台というラインを想定しておく必要があるのです。

 では、対価として年収700万円を要求するには、会社に対してどれだけの貢献をしなければいけないのでしょうか。

 企業が人を一人雇うには、社会保険料等も含めて給与の約1.5倍の直接コストがかかります。つまり、年収700万円で人を雇うためのコストは1,050万円。

 そして、原価や外注費などを除いた営業粗利益のうち、製造業であれば50%くらいが人件費に回されます。したがって、1,050万円の人件費が必要ということは、その倍の2,100万円の営業粗利益分を稼ぎ出さないといけません。さらに、製造業の営業粗利益率は20~70%程度ですから、その2,100万円のさらに2倍弱~5倍の売上に貢献する必要があります(これらの会計用語や計算がわからない人は、財務諸表の読み方から勉強してください)。

 つまり、700万円の年収を要求するということは、「自分を採用することで会社の売上を年間3,000万円~1億円増やすことができる」と言っているのに等しいのです。

 とはいえ、大企業ミドル層を採用する中小企業から幹部としての活躍を期待され、年収700万円を提示される場合もあるでしょう。転職者年収の30~40%を手数料とする人材紹介会社としても高い年収で転職してくれるほど稼げるので、高い年収確保に動いてくれるはずです。

 しかし、ここに落とし穴があります。年収700万円はあくまで転職初年度の話だということです。相応の成果を出せなければ、財政的に余裕のない中小企業では経営層からかなりのプレッシャーをかけられ、2年目以降はどんどん給与を下げられるという例は珍しくないのです。

 ここまでのことを理解すれば、胸を張って「年収700万円ほしい」と言える人はだいぶ少なくなるはずです。

 

現実的なラインで生活レベルを見直す視点も必要

 このような話をするととたんに悲観する人が多いのですが、そもそも年収700万円という数字にもたいした根拠などありません。本当にそのような金額が必要なのかどうかも、よく調べて、検討する必要があります。

 先ほど触れたように、日本企業で働く人の4割は年収300万円以下なのです。大企業で働いていた人は「それでは生活できない」と言いますが、実際、それで生活している人はいくらでもいます。自分や家族の生活レベルを見直すという視点もあっていいはずです。

 また、夫のみが働く専業主婦世帯は減少し続けており、今や共働きが一般的ですから、多くは夫婦が力を合わせて家計をやりくりしているのです。夫が年収400万円、妻が年収300万円稼げれば、世帯年収は700万円になるというわけです。

 自分の市場価値と転職後の生活レベルを客観的に見直すことで、より現実的な希望年収を弾き出すことができます。希望年収を根拠なく高めに設定することをやめて、最低ラインを下げることで、転職先の選択肢は増え、何より転職後のプレッシャーを軽減できるのですから、決して悪いことばかりではありません。仕事内容重視で、本当にやりたいことができる企業を選べる可能性も高くなるはずです。

 また、仕事の内容面に関しても十分なリサーチが必要です。分業化された大企業の仕事に慣れている人が中小企業に転職すると、業務範囲が一気に広がることにきっと戸惑うことになります。

 例えば、転職前は経理の、それも一部の業務だけを担当していた人が、中小企業に転職して経理も人事も総務も任されるといったことはざらにあります。そういう実態を事前に理解できていれば、今の会社の他部門の業務に対する関心の持ち方も変わってくるでしょう。リスクを冒して行動を起こす前に調べられることはいくらでもあるのです。



著者紹介

前川孝雄(まえかわ・たかお)

〔株〕FeelWorks 代表取締役/青山学院大学兼任講師

1966 年、兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。〔株〕リクルートで『リクナビ』『就職ジャーナル』などの編集長を務めたのち、2008 年に〔株〕FeelWorks 設立。「上司力研修」「50 代からの働き方研修」などで400 社以上を支援。2017 年に〔株〕働きがい創造研究所設立。〔一社〕企業研究会研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業審査員なども兼職。
独立直後には、「700 通の挨拶状を送るも反応ゼロ」「仕事の依頼がなく近所の公園で途方に暮れる」といった挫折を味わう。そこから立ち直った経験から、近年はミドルの転職・独立・定年後のキャリアの悩み相談に乗る機会も多い。
著書は、『上司の9割は部下の成長に無関心―「人が育つ現場」を取り戻す処方箋』(PHPビジネス新書)、『「働きがいあふれる」 チームのつくり方』(ベスト新書)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『もう転職はさせない! 一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)など多数。

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