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50歳から今の会社でもう一勝負! キャリアシフトの勧め

2019年12月11日 公開
2024年01月29日 更新

前川孝雄(FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)

給与や肩書きから、働きがいへ

 

 自分のキャリアは自分で創り出すもの─―。終身雇用と年功序列を担保してもらう代わりに、会社命令には逆らえず縛られてきた日本のサラリーマンにはそれが難しいことになってしまっていたと、400社以上で人材育成を手がけてきた〔株〕FeelWorks代表取締役・前川孝雄氏は指摘する。組織に依存するのではなく、自分自身で自分のキャリアをコントロールできるようになれば、きっと働くことは今よりもずっと楽しくなるはず。しかし、そのためには、会社を「まだ」辞めてはいけないと言う。辞める前にやるべきこととは?

※本稿は、前川孝雄著『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

 

定年=第二、第三の職業人生のスタート

 これまでは定年=リタイアを前提にした働き方や人生設計が中心で、企業としてもその前提で社員に接していました。しかし、定年=リタイアではなくなっているのです。個人にも企業にも発想の転換が必要です。

 頭の整理のために、図を見てください。縦軸に仕事を続けて「誉生(誉れある人生)」を生きるか、プライベートを充実させて「余生」を生きるか、横軸に今の会社で活躍を目指すか、今すぐ転職や独立をするかと置きます。

 

 

 まずは右下の「黄昏研修・マネープラン」の領域。多くの大手企業の場合、50歳前後のミドル社員に対して、そろそろ定年後のライフプランを考えましょう、という研修が実施されてきました。住宅ローンはどの程度残っているのか、子どもの教育費はあとどのくらいかかるのか、年金生活になったら、どんな生活にするべきなのか……いろいろとマネープランを考えさせられます。

 企業は良かれと思って研修しているのに、当の本人たちはこれからの人生プランを考えさせられると、「ああ、もうオレはこの会社に必要じゃないんだな」「お金のことばかり考えていたら余計不安になってきた」という気持ちになってしまうという構造です。表向きにはライフプラン研修などと銘打たれているものの、ともすれば、「黄昏研修」とも揶揄されがちです。

 ただでさえユングの言う「中年の危機」(ミッドライフ・クライシス)の時期であり、かつ「キャリアプラトー」と呼ばれる昇進・昇格の可能性に行き詰まりモチベーションが下がり気味な中で、泣きっ面に蜂だらけという状態です。

 ただ、余生の人生設計を支援する研修ならまだよいもの。二つ目は、左上の「アウトプレースメント」の領域。主戦力ではなくなったと決めつけられた50歳前後以上の人たちを対象に、リストラすることを目的としたものです。

 しかし、見方を変えれば、これも大企業勤務者ならではの手厚い支援です。第二、第三の誉れある職業人生へのルートを会社が整えてくれているわけですから。しかし会社ムラで生きてきた当人には、そう前向きに受け取ることは難しいもの。強制的に人材斡旋会社で面談され、考えてもなかった中小企業をいくつも紹介され、面接を拒めば会社に居場所がなくなり、追い出し部屋に仕事もなく押し込まれる……。業績が厳しく、給与原資が限られている企業の事情からすると仕方ないのかもしれませんが、当人にとってみたら、プライドはボロボロになり、落ち込むどころではないでしょう。

 三つ目は、そんな会社や仕事のしがらみから解放されて、左下の「田舎暮らし・人生の楽園」を目指したいという領域。このニーズに応える地方自治体の移住支援サービスもあります。テレビ朝日の番組『人生の楽園』に出てくるようなシニアの生き方ですね。

 ちなみに、あの番組では、綺麗な面ばかりがクローズアップされますが、都会の便利な暮らしに慣れた人が、不便な田舎生活を送ることは簡単ではありません。何より、田舎の濃密なムラ社会に溶け込めず、人間関係をうまくやっていけない人は少なくありません。

 これまでの三つは、すべて定年=リタイアを前提としたものばかりです。でも、「定年=第二、第三の職業人生のスタート」と考えると、今の会社での仕事や役割の捉え方もガラリと変わるはずです。これが右上の「キャリアシフト」の領域です。

 大手企業で働いてきた、これまでは管理職として部下に指示を出してきた、管理職ではなくとも下請け会社に指示してきたという人たちも、定年後は中小企業で働くか、自営の道を選ぶわけですから、自分がプレイヤーとして動かなければなりません。となると、役職定年でプレイヤーに戻ることに腐っている場合ではありません。むしろ歓迎し、積極的にプレイヤーとして動ける体に戻すべきでしょう。

 これまでは専門領域の仕事のみをしてきたという人も、中小企業に転職すれば、もっと幅広く業務を担わなければいけません。独立して自営業を目指すなら、すべての業務を自分が担わなければならなくなるのです。

 そんな5年先、10年先の定年後を見据えると、今のうちに積極的に他部署の仕事に関わり、教えてもらう働き方も意識すべきでしょう。キャリアシフトとは、給与や肩書きに一喜一憂していた過去のパラダイムを脱し、自分自身の「働きがい」を重視して、今の会社での仕事や働き方を見つめ直すことです。

 2019年6月26日、私が営むFeelWorksが企業人事を対象に、まさに「バブル世代のキャリアシフト」と題したシンポジウムを開催したところ、100人の定員がすぐ埋まるほどの予想以上の大盛況となりました。ソニー、ディスコ、リクルートといった企業に登壇いただき、ミドル層の転職マーケットのトレンドや、ミドル世代の多様なキャリアについても支援する先進的な企業事例などを取り上げ、参加した皆さんから大きな関心を集めました。ミドルの活躍支援に向けて、日本の企業も変わり始めているのです。

 

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著者紹介

前川孝雄(まえかわ・たかお)

〔株〕FeelWorks 代表取締役/青山学院大学兼任講師

1966 年、兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。〔株〕リクルートで『リクナビ』『就職ジャーナル』などの編集長を務めたのち、2008 年に〔株〕FeelWorks 設立。「上司力研修」「50 代からの働き方研修」などで400 社以上を支援。2017 年に〔株〕働きがい創造研究所設立。〔一社〕企業研究会研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業審査員なども兼職。
独立直後には、「700 通の挨拶状を送るも反応ゼロ」「仕事の依頼がなく近所の公園で途方に暮れる」といった挫折を味わう。そこから立ち直った経験から、近年はミドルの転職・独立・定年後のキャリアの悩み相談に乗る機会も多い。
著書は、『上司の9割は部下の成長に無関心―「人が育つ現場」を取り戻す処方箋』(PHPビジネス新書)、『「働きがいあふれる」 チームのつくり方』(ベスト新書)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『もう転職はさせない! 一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)など多数。

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