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結局、天職や好きなことは「やってみないとわからない」

2019年12月20日 公開
2023年10月24日 更新

楠木建(一橋ビジネススクール国際企業戦略教授),伊藤羊一(Yahoo!アカデミア学長)

成果をあげるほど苦しくなっていった

 楠木 テーマを変えただけではなくて、仕事のスタイルとか、オーディエンスもですね、学会での、アカデミックのオーディエンスに対する仕事から、実際にお仕事をしていらっしゃる方々にシフトしました。ですから、学術雑誌での論文ではなくて、本を書いたり、学会誌でない雑誌に書いたり、話したり、会社のお手伝いをしたりとか、そういうふうに変わったっていうことです。エンドユーザーに対する直販ですね。

 伊藤 バサッと変えられたんですか? つまり、メディアには出ながら裏で論文のフォーマットで、学術的な研究をコツコツやられていなかったんですか?

 楠木 このときはもうやってないです。これは僕の仕事のテーマを変えたあとなんで。ですから、僕がアカデミックなフォーマットでそれなりに仕事をしていたのは、もう前世紀の話ですね。1992年から仕事をしているので。今世紀に入ったところぐらいから、どうも調子出ないなと。

 客観的に見ると、出せば学術雑誌にアクセプトされることもあるし、だんだん論文リストが長くなっては行きました。周囲はそれを競っているもんですから、「どっちがすげぇんだ」みたいな。まぁ、若者は必ずそうなんですけど、こういうのがつくづくイヤなんですね。それでも、僕はわりと小器用なので、やってるうちにそこそこできるようになっていきます。

 学会での発表も、やればやるほどアカデミックのオーディエンスのツボがわかってきます。「じゃあ今度はこういうテーマとデータで研究をしてみようかな。結構ウケそうだよね」っていう。なんか、マーケットインと言えば聞こえがいいですが、その場限りの手品みたいなイメージです。「はい、ハトが出ますよ、おおーっ!」みたいな。で、さあ次どうしようかなっていう。これ、非常に虚しくなりまして。

 ですから、客観的には調子が悪かったわけではないんです。逆に業績が出てくれば、出てくるほど、自分としては「なんだこりゃ」と。アカデミックなインナーの評価で、直接のお客さんにはなかなか届かない、その乖離に疑問を感じるわけです。

 例えば、『オーガニゼーション・サイエンス』っていう雑誌に論文が採択されたとき、業界内では「ついに載ったねとか、よかったね!」と。でも、実務家は一人として読んでないんです。当たり前ですけど。

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著者紹介

楠木 建(くすのき・けん)

一橋大学大学院教授

1964年、東京都生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学商学部卒、同大学院商学研究科修士課程修了。専門は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社)などがある。

伊藤羊一(いとう・よういち)

ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長

〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。
かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。
2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。
著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。

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