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ベストセラー『働き方の哲学』の著者に聞く「ビジネスパーソンの成長とは?」

2020年01月20日 公開
2023年02月24日 更新

村山昇(キャリア・ポートレートコンサルティング代表)

村山昇

40代以降は「在り方」を決めてから学ぶべき

 だからこそ、30代後半以降は、自分の成長戦略を自ら練り、学んでいくことが大切になる。

「私はよく『処し方』と『在り方』という言葉を使います。

 処し方とは、例えば、『会社から海外赴任を命じられたから英語を勉強する』というように、あるテーマに対してどう処していくかを考えること。在り方とは、文字通り、そもそも自分はどうありたいかを考えることです。

 若手の頃は在り方なんて考えなくても、会社から与えられた仕事をどう処理していくかを考えていれば成長できるわけですが、ある一定の年齢に達すると、それだけでは成長できなくなります。また、与えられた仕事だけで勝負しようとすると、自分よりも若い人のほうが頭の回転や記憶力が優れているうえ、新しい物事に順応できるスピードも速いですから、彼らに勝つのが難しくなります。若手と同じ土俵で戦おうとしてはいけないのです。

 ですから、ある時点からは、処し方だけではなく、自分の在り方を見つめる必要があるのです」

 在り方を見つめるとは、具体的にはどういうことなのだろうか。

「『これから自分がライフワークにしたいテーマはなんだろうか』とか、『自分が生き生きと没頭できるテーマはなんだろう』といったことを考えるのが、自分のありたい姿を見つめることにつながります。

 実は私もちょうど40歳前後の時期に、自分の在り方を見つめ直したことがありました。そのときに思ったのは、『東京と地方の2カ所に自宅を持ち、東京では研修講師として、地方では農業をしながら暮らしたい』というものでした。

 当時、私は会社員でしたから、これを実現するためには、研修講師として独立を果たす必要があります。そのためには、それまでに培ってきたスキルを体系化したり、著作などの実績を作ったり、また、人脈を作ったりすることが必要でした。田舎暮らしをするうえでの情報収集や現地での人脈作りも大切になりました。

 つまり、在り方が見つかると、それを実現するためには何をしなくてはいけないか、どんな知識やスキルを高めなくてはいけないかも見えてくるのです。会社から与えられたテーマではなく、自分で見つけたテーマに取り組んでいるうちに、他の人が持っていない独自のスキルや経験が得られます。

 私は、40代からの学びは、若手のときとやり方を変えるべきだと考えています。若いときはビジネスパーソンとしての基本的な知識やスキルを身につけるために、いろんなことを貪欲に吸収することが大切です。しかし40代以降は、在り方を定めたうえで、その在り方を実現するために必要なことのみに、学ぶ内容を絞り込むべきです。

 在り方を実現するための学びであれば、たとえそれが大変なものだったとしても、モチベーション高く取り組むことができるはずです」

 

会社の中にばかりいると視点や発想が広がらない

「自分の在り方を定めることが大事」と言われても、本当にやりたいことやライフワークを見つけることは、多くの人にとってそんなに簡単ではない。

「そうですね。机の前にずっと座って『自分の在り方ってなんだろう』と考えたところで、思い浮かぶものではありません。

 私がお勧めしているのは、社外に出ていろんな人と会うことです。

 会社というのは非常に同質性の高い集団ですから、その中で1日の大半を過ごしていると、視点や発想が固まってしまいます。

 今は副業や兼業がやりやすい時代ですから、例えば起業をしている知人にお願いをして、少しだけビジネスのお手伝いをさせてもらうというのもいいかもしれません。また、異業種交流会やボランティアに参加してみるのもいいでしょう。

 社外で出会った人の中には、自分よりもずっと高い視座や豊かな発想を持っている人がいるものです。彼らから刺激を受け、『自分もあんなふうになりたい』『どうすればあんな生き方ができるんだろう』と思うことは、自分の在り方を見つめ直すきっかけになります。そうした体験を重ねる中から、『自分は若い人を育てることに興味があるみたいだ』というように、ライフワークにできそうなことが少しずつつかめてきます。

 在り方のヒントが見えたら、そこに向けて、またできることをやってみて、小さな体験を積めばいい。『やってみたけど、ちょっと違うな』と感じたら、軌道修正を図ればいい。そんなことを続けているうちに、会社の中だけにいたときとは異なる考え方や発想ができるようになり、それ自体が学びになります。

 また、在り方を考えるときには、自分が所属している会社や携わっている仕事の枠組みの中で考えてみるのもいいと思います。『自分は人間としてどうありたいか』を考えようとしても、漠然としすぎていてまったく思い浮かばない人が多いでしょう。それなら、『会社の中でどうありたいか』や『今、携わっている仕事を通して、何を成し遂げたいか』を考えればいいのです」

 

グーグルが実践する「20%ルール」とは?

 難しいのは、自分の在り方を考え、そこに向けて経験をしてみることが大切であることがわかったとしても、人はつい目の前にある仕事に追われてしまい、その他のことは後回しにしてしまいがちだということだ。

「スティーブン・R・コヴィー氏は『7つの習慣』(キングベアー出版)の中で、縦軸に重要度、横軸に緊急度を取った時間管理のマトリックスを示したうえで、『どんなに忙しくても、第Ⅱ領域(緊急ではないが重要なこと)に携わる時間を必ず確保するようにしなさい』と述べています。在り方を考えたり、実際に行動してみたりすることも、第Ⅱ領域に属することです。

 これを企業で実践しているのが3Mやグーグルです。

 両社とも、十分に利益を出せる製品やサービスを既にいくつも手がけています。しかし、現状に満足していたら、さらなる成長は望めず、逆に後退するばかりになってしまいます。

 そこで、3Mは15%ルール、グーグルは20%ルールを設けています。これは、勤務時間の15%ないし20%を自由に使っていいというものです。社員を第Ⅰ領域(緊急で、かつ重要なこと)の仕事に埋没させず、第Ⅱ領域に取り組ませるための仕組みと言えます。

 そして、両社とも、このルールの中から新たな製品やサービスを数多く生み出しています。

 個人も同じです。さらなる成長を望んでいるのなら、15~20%の時間を第Ⅱ領域の活動に注ぎ込みたいところです」

 

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著者紹介

村山 昇(むらやま・のぼる)

キャリア・ポートレートコンサルティング代表

組織・人事コンサルタント。概念工作家。1962年、三重県生まれ。86年、慶應義塾大学経済学部卒業。プラス〔株〕、日経BP社、〔株〕ベネッセコーポレーション、〔株〕NTTデータを経て、2003年に独立。1994~95年、イリノイ工科大学大学院Institute of Design研究員。2007年、一橋大学大学院商学研究科にて経営学修士(MBA)取得。『働き方の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など、著書多数。

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