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会社員からの起業のリアル。「会社員のうちにできることは、全部しておいたほうがいい」

2020年01月29日 公開
2023年02月24日 更新

田中美怜(AKEBONO TEA社長)

 

骨折での入院が働き方を見直すきっかけに

 ――自分でビジネスをしたいという気持ちは、もともとあったのでしょうか?

田中 大学を卒業した時点では、あまりありませんでした。ただ、留学先の友人に、自分でビジネスをしている人や、しようとしている人が多かったので、少し興味はありましたね。日本ではそういう友人はいなかったので、新鮮でした。

 新卒でソフトバンクに入ってから、起業に興味のある同期が何人もいたり、実際に起業のために辞めていった同期を見たりして、「自分も起業したい」「自分にもできるかもしれない」と思うようになりました。

 ――起業の直接のきっかけは入院だったということですが……。

田中 足を骨折して、2~3カ月間、仕事を離れたことがあったんです。それまでは日々の仕事に追われて精いっぱいだったので、これを良い機会にして何かを変えようと思いました。そこで、海外の大学院に留学し、そのまま海外で働くことも考えたのですが、起業することにしたんです。

 ――その時点で、日本茶での起業を考えた?

田中 商品のアイデアはありましたが、実際にそれで起業するとは考えていませんでした。

 ソフトバンクを辞めてから1年間ほど、フリーランスとしてスタートアップで働いていて、その時期に、お茶の業界を見てみたいと思い、少しだけお茶の会社を手伝いました。主にお茶の輸入販売をしている会社で、自社ブランドを立ち上げようとしているところでした。そこで、「もしかしたら自分にもお茶の事業ができるかもしれない」と思ったんです。

 スタートアップの仕事を、自分ができることはやり切ったと感じるところまでやって、今度は自分のアイデアを実現することに挑戦しようと思い、実際に起業しました。

 ――実際に起業すると、精神的なストレスもあると思います。

田中 ありますね。ストレス対策のために、意識的に運動するようになりました。

 ――タイムマネジメントも大変ではないですか?

田中 自分で自分をコントロールしないといけないのですが、私はぐうたらしてしまうタイプなので(笑)、昼夜逆転してしまったこともありますし、それが治らないので睡眠薬をもらったこともあります。

 今は大手IT企業にフルタイムで勤めつつ、夜の時間などにAKEBONO TEAの経営をしています。勤務時間も、必要に応じて、フレキシブルに調整できています。

 ――経営ということについては、掴めてきましたか?

田中 まだまだです。企画だけで1年が過ぎてしまったようなものですし、商品の販売を始めてから、まだ1年ですから。

 ただ、自分1人の力で、融資が大半ですが、自分のお金を使って、商品を発売し、その売行きを見てSEOや営業の仕方を改善するという一連の流れを経験したことは、とても勉強になりました。

 ――融資を受けるというのも、多くの人が起業を躊躇う要因の一つだと思います。

田中 私の場合は、もし売上げが思ったほど上がらなかったとしても、会社員として働けば、その給料で返せるだろうという金額の範囲で借りました。

 先ほどお話ししたように、今は会社員もしていて、それは金銭的な安定のためでもありますが、精神的な安定のためという部分が大きいです。1人で仕事をしていると、家族や友人などとの関係で落ち込んだときに、それが仕事にも影響してしまうんです。

 また、インスピレーションや新しい知識、情報を得られる職場で働くことが、AKEBONO TEAの事業にも良い影響を与えていると感じています。例えば、会社員としての仕事で身につけたイベントの企画・運営のノウハウがAKEBONO TEAにも活かせるのではないか、といったことです。

 ――起業する前にしておけばよかったと思うことはありますか?

田中 会社員でいるうちに、できることはしておいたほうがいいと思います。毎月、決まったお金が懐に入ってくるというのは素晴らしいことなので、事業を始める準備は、忙しいかもしれませんが、会社員を続けながらできるところまでやっておくのがいいでしょう。

 もう一つ、知り合いを多くしておくに越したことはないとも思います。私は広報のこともまったく知らないまま起業したので、大学入学のときに知り合って以降、全然連絡を取っていなかった方に連絡をして教えてもらったりもしました。

 SNSで「こんなことをしているよ」という情報発信をしていれば、思わぬところで何年も連絡を取っていない人が見てくれていて、久しぶりでも話しやすかったりもするので、それも悪くない手だと思います。恥ずかしいと思うかもしれませんが、ネガティブな反応はそれほどありませんし、「思ったよりも興味を持ってくれる人がいるんだな」と感じると励みにもなります。

 ――最後に、AKEBONO TEAの今後の展開について教えてください。

田中 SNSを使ったBtoCの働きかけをもっと強化したいですし、本来の目的である海外への輸出にももっと力を入れたいと思います。海外の販売代理店との交渉を、現在、進めているところです。

著者紹介

田中美怜(たなか・みさと)

AKEBONO TEA〔株〕代表取締役社長

1991年、愛知県生まれ。慶應義塾大学在学中にパリ政治学院(フランス)とボッコーニ大学(イタリア)に留学。卒業後はソフトバンク〔株〕で法人営業を経験。2年間勤めたあと退社し、スタートアップで新規事業開発などに携わったのち、2018年にAKEBONO TEA〔株〕を起業。

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