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グラウンドワークス「エヴァンゲリオンの版権ビジネスが成功し続けている理由」

2020年04月07日 公開
2022年10月25日 更新

【経営トップに聞く】神村靖宏(グラウンドワークス代表取締役)

 

ライセンス事業を別会社にするメリットとは?

神村靖宏

 

 ――その後、エヴァンゲリオンのライセンス事業が、ガイナックスから、新たに設立されたグラウンドワークスに移ったわけですが、その経緯は?

神村 庵野さんが新劇場版を始めるに当たって、2006年に〔株〕カラーという会社を立ち上げました。カラーは作品を企画する製作会社として始まって、制作は他のスタジオにお願いするつもりだったのですが、結局、制作スタジオも社内に作ることになりました。ガイナックスも、エヴァンゲリオンの原作権は庵野さんにあるという認識で、徐々に権利をカラーに移すという約束をしていました。

 ただ、カラーにはライセンス事業を担当できる人材がいなかったので、すぐに窓口を移すことは難しいということで、新劇場版第2作の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年公開)までは、僕がガイナックスにいながら商品化窓口と新劇場版のプロモーションも担当していました。

 しかし、ガイナックスはガイナックスで別の作品を作っているし、新劇場版のプロモーションを担当するということは他社の仕事をすることになってしまうので、新劇場版のプロモーションをする会社として、2010年に〔株〕グラウンドワークスを立ち上げました。

 その後もしばらくは、商品化の権利についてはガイナックスに残していたのですが、テレビシリーズよりも新劇場版の案件のほうが多くなってきたこともあって、約束通り、カラーに権利が移りました。その権利を、カラーから当社に委託していただいている形です。

 つまり、庵野さんが独立したのを追う形で、それを第三者の立場からお手伝いするために独立した、ということですね。

 当社を設立してすぐに、「EVANGELION STORE」の運営もガイナックスから引き継ぎました。ライセンサーがライセンシーの商品の販売も手がけるというのは、当社のかなりユニークなところです。オンラインショップだけでなく、リアル店舗も6店舗にまで増えました。

 ライセンシーの中には、面白い商品を作るのだけれども、小規模で販売力が弱いところもあります。EVANGELION STOREで販売すれば、その問題が解消されます。また、リアル店舗はユーザーとの接点になり、プロモーションにもかなり有効だと感じています。

 ――独立ではなく、カラーに入社するという選択肢はなかった?

神村 それはなかったですね。作品を作るのと運用するのとは、違う頭でやったほうがいいと思いますから。庵野さんとも、そういう話をしました。

 ――実際、カラーと御社が別会社であることのメリットは感じていますか?

神村 カラーが100%オリジナルの作品を作れているのは外部からのノイズに煩わされないからだと思いますし、当社もフレキシブルに動けています。商品化にしても企業企画にしても、あまり細かくカラーの決裁を仰ぐことはしていないんです。もちろん、作品に対して影響がおよぶような大きな企画については相談しますし、事務所もカラーの近所にして、連携を密に取っています。

 ――例えば、作品の中に商品を出すときには、カラーと相談する?

神村 もちろん、そうですね。商品の宣伝手法としても、映画の宣伝手法としても使われる、プロダクトプレイスメントと呼ばれるもので、最近では『天気の子』(新海誠監督/2019年公開)が話題になりました。エヴァンゲリオンでも、例えば、〔株〕NTTドコモの携帯電話端末を『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』に出したことがあります。

 プロダクトプレイスメントについては、「この商品を出してください」と言われて、「多少ムリをしてでも出そうか」ということはしません。NTTドコモの件についても、そのために携帯電話が出てくるシーンを作ったわけではありません。エヴァンゲリオンはコミュニケーションの物語ですから、通信機器が小道具として登場するのは必然ですし、劇中でミサトに携帯電話を渡されたシンジが「要らない」と言うのも重要なシーンです。そのシーンに登場している携帯電話が商品として実際に手に入るというのは、なかなかいいじゃないですか。

 ―――独立してからも、幅広く様々な企業にライセンスを許諾する方針は変えていない?

神村 特定の企業や代理店に依拠せず、常に幅広くお声がけをしています。そして、タイミングが合った案件を形にしている感じですね。「エヴァンゲリオンはいつでもOKをくれる」という雰囲気を醸成しています(笑)。

 ――2015~18年に運行されていたエヴァ新幹線「500 TYPE EVA」も大きな話題になりました。これはJR西日本から話が来たのですか?

神村 はい。JR西日本はアニメを軽々に使う企業ではありませんし、旅行商品と違って、新幹線の塗装を変えて走らせるとなると、JR西日本にとっても大変なことです。そんな企画に使っていただけるのは名誉なことですし、作品の価値を上げることもつながると考え、大喜びで許諾させていただきました。エヴァンゲリオンの関係者には鉄道好きも多いですし。前例のないことができ、大企業と一緒に仕事をする経験もできて、とても良かったですね。

 大企業と仕事をするには代理店を挟む必要があるのですが、それには良い面もあれば、悪い面もあります。良い面というのは、大きな金額を動かせることや、僕らがとてもおよばない企画力やコネクションを代理店は持っているということ。大企業の中で決裁を下ろしていただくためには、代理店からきちんとしたプレゼンテーションをしていただく必要もあります。半面、こちらの気持ちが相手に伝わりにくくなるのが、悪い面です。代理店はクライアントである大企業のために動いているので、「こうしたほうが、もっと良くなりますよ」と逆提案しても、流れを変えることは難しい。ここは毎度、血圧が上がるところです(笑)。

 ――許諾を出さないという判断をすることは?

神村 企画にもよりますが、教育系や就職関係、金融系、保険などは、あまりやらないほうがいいかなと思っています。お客さんの人生にとって大事なことですから、アニメで決めちゃダメでしょ(笑)。エヴァンゲリオンのグッズがもらえるからという理由で進学先に選ぶようなことは、やらないほうがいいと思います。

 もちろん、作品の価値を下げるような企画にも許諾を出していません。例えば、同じような企画を作品のバリューが擦り減るまで続けたり、過去のヒット企画や他社の成功した企画と同じことをしたり、というものです。

 今年6月27日に公開される『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の前売り券は、ローソンとセブンイレブンとで同時に特典付きで販売を始めたのですが、これは画期的なことだと思います。他の人が忖度してやらないことでも、作品にとって良いことであれば、どんどんやっていきたいですね。

 また、他の作品のほうが適していると思ったときは、はっきりとそう言います。「この企画はエヴァよりガンダムのほうが向いているから、サンライズさんに話してみたらどうですか」とか(笑)。

 

著者紹介

神村靖宏(かみむら・やすひろ)

〔株〕グラウンドワークス代表取締役

1962年生まれ。兵庫県姫路市出身。大阪大学在学中に自主映画の制作集団「DAICON FILM」に参加。DAICONFILMの活動終了後、87年にNTTに入社。91年、〔株〕ガイナックスに入社。2010年、〔株〕グラウンドワークスを設立、代表取締役に就任。19年12月、〔株〕ガイナックス代表取締役を兼任。

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