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ボーダレス・ジャパン「10億円のソーシャルビジネスを年間100社生み出し続け、1兆円企業を目指す」

2020年04月07日 公開
2022年10月25日 更新

【経営トップに聞く】田口一成(ボーダレス・ジャパン社長)

田口一成

 

小さく始めて、2回目で成功すればいい

 ――ビジネスモデルができたら、それをどう実現していくのでしょう?

田口 より詳細なビジネスプランシートを作って、「社長会」に諮ります。

 ――社長会というのは、御社のグループ会社の社長たちが集まる会ですね。

田口 そうです。当社は僕の会社ではなくて、社会起業家たちが集まって協力し合う会社なので、最高意思決定機関が社長会なんです。グループ35社の社長が、赤字会社も黒字会社も関係なく、一人1票ずつ持って、全会一致で意思決定を行ないます。

 新規事業を決めるときに僕が持っているのも1票だけですし、半年に1回、世界中の社長が集まる世界会議では、僕は1票も持たずに議事の進行を担当して、意思決定は他の社長たちに任せています。

 ――社長会でビジネスプランが承認されたら?

田口 初期費用最大500万円とランニングの費用1,000万円の計1,500万円を出して新会社を設立し、マーケティングやプロモーション、ブランディングなどを行なう当社の「スタートアップスタジオ」のメンバーや僕も一緒になって、実際に事業を立ち上げます。

 ――1,500万円以上かかる事業はしないということですか?

田口 以前は初めからもっと大きな金額を投資していたのですが、ビジネスの経験がない起業家がいきなり大きな船を操縦するのは難しく、うまく機能しないケールもあったので、あえて小さく始めることにしました。

 1,500万円あれば、どんなビジネスでも始められるんですよ。ものすごく小さいですが、工場を建てることもできます。10~20坪の工場で、従業員も1~2人で始めて、うまくいったら、さらに投資していけばいいんです。

 ――ボーダレス・ジャパンが起業家たちに出資して会社を設立するということですから、形としては、ボーダレス・ジャパンが親会社で、社会起業家たちが社長を務めるグループ各社が子会社ということになりますよね?

田口 形はそうですが、僕らの会社に対する概念は違います。グループ会社それぞれが主体で、そこから出た余剰利益を共通のポケットに入れ、そのお金を使って次の社会起業家をサポートしよう、ということなんです。その共通のポケットの運営事務局であるボーダレス・ジャパンが、便宜上、グループ各社から配当を受ける形を取っているだけです。

 グループ各社の社長が次の起業家をサポートするのは、自分たちが受けた恩を次の起業家に「恩送り」するということです。ですから、誰を応援するかの意思決定をグループ会社の社長たちが行なうというのも、当然のことです。

 先日、社長会のあとに、グループ会社の社長の一人が「ボーダレスは国連みたいですね」と言ったのですが、確かにその通りだなと思いました。国連は、国際平和と安全を守ることを目的に、賛同した国々が加盟していますが、国連が加盟国をコントロールする力は持っていません。

 ボーダレスグループも「ソーシャルビジネスを通してより良い社会を作る」という目的に賛同した会社が集い、共通ルールの中で、それぞれが独立していています。もちろん、ボーダレス・ジャパンが各社をコントロールすることはありませんし、ボーダレス・ジャパンを「本社」と呼ぶことも禁止されています。

 ボーダレス・ジャパンにグループ各社の余剰利益が集まるということは、結局、ボーダレス・ジャパンの大株主である僕にお金が入っているんだろうと言われることもあるのですが、ボーダレス・ジャパンは定款の前文で、出資した金額を超える株主への配当を禁止しています。ですから、ボーダレス・ジャパンにいくらお金が集まっても、僕に入ってくるお金が増えることはありません。余剰利益は、配当ではなく、ソーシャルビジネスへの再投資と従業員の福利厚生にしか使えないとも、この定款に明記してあります。

 ちなみに、ボーダレスグループ各社の社長の年俸は、各社の中で最も年俸が低い社員の7倍を上限にするとも定めています。ただ、国によって給与水準が違うので、地域によっては10倍を上限にしています。

 もし、社員の一番低い年俸が200万円の会社であれば、その社長の年俸は1,400万が上限です。「社長だし、3,000万円の年俸がほしい」ということであれば、その会社で最も年俸が低い人を430万円くらいにしなければなりません。これが、僕らが考えるフェアネスです。

 ――親会社と子会社という関係ではなく、グループ各社は独立しているということですが、ボーダレス・ジャパンが経営に関与することはない?

田口 プランニングから立ち上げ初期までは、ボーダレス・ジャパンがサポートします。黒字化するまでは、月に1回、僕と社長で経営会議を行ないますが、黒字化したあとは、既に黒字化しているグループ会社の社長たち同士4人で経営会議をする形です。だいたい1年~1年半で黒字化する会社が多いですね。

 そして、経理や労務などのバックオフィス業務については、ボーダレス・ジャパンにある「バックアップスタジオ」がグループ各社からアウトソーシングを受ける形で、経営をサポートしています。

 先程とは別のグループ会社の社長は「ボーダレスはジャニーズみたいですね」と言っていました。ジャニーズ事務所では、ジュニア時代はレッスンなど、デビューのために様々な育成サポートをするけれども、彼らがデビューしたらそれぞれのグループが自由に活躍しているところが、ボーダレスグループと共通しているということです。

 起業家には、独立したいけれど、孤立したくないという想いがあります。だからボーダレスグループでは、起業家が独立しながらも、ともに成長できる仕組みを作っています。

 ――赤字のままのグループ会社も、中にはあると思います。その事業を続けるかどうかの判断は、どのようにしているのですか?

田口 初めに出資した1,500万円が尽きたら事業停止です。そこで事業をやめたい人はやめてもいいのですが、ほとんどの起業家はリトライを望みます。その場合は、リバイバルプランを出してもらい、それが社長会で認められれば、また1,500万円を出資します。

 僕は、2回目で成功すればいいと考えています。1回目は大いに失敗していい。それで自分の経営者としての実力不足を実感することで、経営者として大きく成長できます。

 2回目で成功すれば、3,000万円で1事業が立ち上がることになります。年間100社立ち上げることを目標にしているので、それには年間30億円あればいい。あとは、それをどう調達するかだけなので、ファンドを作ってもいいし、銀行を作ってもいい。やり方はいろいろあります。欧州には社会的企業(社会課題の解決を目的としてビジネスを行なう企業)にだけ融資をする銀行が既にあるんです。上場や事業売却を前提としないソーシャルベンチャーにお金がまわる新たな仕組みを作りたいと考えています。

 

著者紹介

田口一成(たぐち・かずなり)

〔株〕ボーダレス・ジャパン代表取締役社長

1980年、福岡県生まれ。早稲田大学在学中の19歳のとき、食べ物がなくて栄養失調になっているアフリカの子供の映像をテレビで観て衝撃を受け、「貧困で苦しんでいる人を助ける仕事をしよう。これなら、自分の人生をかける価値がある」と決意。その後、米国ワシントン大学への1年間留学を経て、2004年、早稲田大学を卒業。同年、〔株〕ミスミに入社。2006年、〔有〕ボーダレス・ジャパンを創業。2007年、〔株〕ボーダレス・ジャパン代表取締役社長に就任。

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