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ボーダレス・ジャパン「10億円のソーシャルビジネスを年間100社生み出し続け、1兆円企業を目指す」

2020年04月07日 公開

【経営トップに聞く】田口一成(ボーダレス・ジャパン社長)

【連載 経営トップに聞く】第30回 〔株〕ボーダレス・ジャパン代表取締役社長 田口一成

 

 社会課題をビジネスで解決することを目指す社会起業家たちに注目が集まるようになって久しく、実際に数々のソーシャルビジネスが立ち上がっている。しかし、うまくいっていない事業も数多いのが現実だ。そんな中、2007年創業の〔株〕ボーダレス・ジャパンは、2020年3月18日の取材時点で、35ものソーシャルビジネスを世界12カ国で展開し、業績も右肩上がりで伸び続けている。いったい、なぜそんなことが可能なのか? 創業社長の田口一成氏に話を聞いた。

 

大切なのはビジネスプランよりもソーシャルコンセプト

 ――なぜ、数多くのソーシャルビジネスを速いペースで立ち上げ続けられて、業績も上げ続けられているのか、その理由を聞いていきたいのですが、まず、どんな事業を立ち上げるのかは、どのように決めているのですか?

田口 当社はビジネスを通して社会課題を解決したい人たちが集まる会社なんです。僕が「こういうことをしよう」と言うのではなく、「社会課題を解決したい」という志を持った人がプランを持ち込んで来て、初めて事業が始まります。だから、いつ、どんな事業が立ち上がるかは誰にもわからないんです。

 ただ、ビジネスの経験がない人も多いので、必ずしも精度が高いとは言えない。そこで、僕らが一緒にプランニングをしています。

 ――持ち込まれた案件がビジネスになるかどうかは、どこを見て判断しているのでしょうか?

田口 僕らが見ているのは、ビジネスプランではなく、「ソーシャルコンセプト」です。社会変革を起こすために、手段としてビジネスをやるので、まず、「どういう社会を作りたいのか」がしっかりとあることが重要。いわゆるビジョンですね。そして、誰にどういう問題が起こっていて、その本質的な原因はどこにあるのか。だから、対策としてどういうアプローチを取るのか。これらを、現場感を持って、きちんと考えられていれば、あとはビジネスの知見を多く持っている僕らが一緒になってビジネスプランを作ればいい。ソーシャルコンセプトさえできれば、それをビジネスプランに落とし込むのは、プロがつけば一瞬です。そこを僕らが担っています。

 ベンチャーキャピタルが見ているのも、「この起業家は何をやりたいのか」だと思います。ビジネスの教科書には「成長するマーケットに入れ」と書いてありますが、実態は違います。事業がうまくいくかどうかは、結局は、マーケットの問題ではなく、起業家が本当にやりたいことをやっているかどうかにかかっているんです。僕らも同じで、本気でやりたいと思っているのかどうかを見ています。

 ビジネスプランは手段にすぎませんから、当初のアイデアからまったく違うものに変わることもよくあります。起業家個人の特性も見極めながら、一緒に作っていって、最後は起業家に自分で決めてもらっています。

 ――ソーシャルビジネスのプランを一つ作るだけでも大変なことだと思いますが、なぜ次々とプランニングできるのでしょう?

田口 それは、プランニングを専門にやっているからではないでしょうか。ボーダレスグループには去年1年間で17社が誕生しましたが、そのすべてに僕が関わっています。実際に事業を立ち上げてからも、コピーやデザインのチェックにまで関わって、自分が関わったプランのフィードバックを得ていますから、プランニングの精度がどんどん高まっています。

 起業家の力量の見極めの精度も高くなるので、それぞれの起業家の強みを活かせるプランニングができるようになっています。

 ――プランニングの段階で、解決したい社会課題が起こっている現場を訪ねることは?

田口 あまりしないですね。と言うよりも、案件が多いので、とてもできません。

 ――それでもプランニングはできる?

田口 今まで、バングラデシュやミャンマーなど、色々な現場に行っているので、その知見を活かしながらですね。例えばグアテマラには行ったことがないのですが、それでもグアテマラの状況の本質的なところはだいたい理解できます。

 とはいえ、行ったことがないとわからないこともあるので、それは聞きます。ただ、話を鵜呑みにはせず、自分が持っている感覚とズレていたら「それ本当?」と尋ねますね。すると、やっぱり違っていた、ということもあります。

 ――グアテマラでこういう事業をすれば、これだけのお客がついて、これぐらいの売上げが上がって……、ということが、日本にいながらにしてわかる?

田口 それはわかりません。マーケットにポテンシャルがあるのか、ないのか、くらいがわかって、プランの骨格をしっかりと作れればいいんです。細かい部分はやりながら修正していけばいいと考えています。

 ――持ち込まれる案件の中で、プランの骨格を作れるものは、どれくらいの割合なのでしょう?

田口 週に1件くらい応募があるのですが、事業立ち上げまで進むのは年に2~3件しかありませんでした。せっかく志があるのにもったいないと思って2018年に立ち上げたのが、「ボーダレスアカデミー」です。

 ボーダレスアカデミーで教えているのは、先ほどお話しした、ソーシャルコンセプトの作り方です。これができない人が多いのですが、それを教えてくれる本もありません。そこで、社会課題の本質がどこにあるのかを掘っていく方法を教えているんです。

 ――掘っていくというのは、具体的には?

田口 現状と理想、そして現状から理想へ行くための方法を書き込む、たった1枚のシートを埋めるだけなのですが、これがけっこう難しい。

 現状というのは、誰にどういう問題が起こっているのかということですが、「誰に」という当事者を「途上国の貧しい人」といった言い方をする人が多い。でも、途上国の貧しい人と言っても、色々な人がいます。具体的に、どんな人なのか。また、貧困と言っても、具体的にどういう問題なのか。そして、その原因はなんなのか。原因がわかって初めて対策が立てられます。すごくシンプルですが、本質的なことです。

 AMOMAという、当社がミャンマーで行なっているハーブの事業を例に挙げましょう。葉巻タバコの小規模農家が貧しいという社会課題を解決するための事業です。

 よく「貧しい農家」とひと括りにして言われますが、実は、ミャンマーの葉巻タバコ農家が皆、貧しいわけではありません。広い土地を持っている農家は貧しいわけではなくて、貧しいのは持っている土地が狭い農家なんです。先ほど、「それ本当?」と尋ねるという話をしましたが、「本当に農家は貧しいの?」と考えることで、実は貧しいのは小規模農家だと特定できるわけです。

 そして、貧しい原因は、作物を取引する市場の価格変動が非常に大きいことだと捉えました。価格が下がったら赤字が出るので、生活ができなくなり、仲買人から高利子で借金をせざるを得ず、それを返済するために出稼ぎに行く、というのが問題なのです。問題の本質には色々な見方がありますが、僕らは、マーケットプライスに依存していることが本質だと捉えたわけです。これだけを解決すれば小規模農家の貧困がすべて解消されるわけではないのですが、僕らはここに取り組むと決めたのです。

 そのうえで、対策として、マーケットプライスではなく、生産コストや生活費などを考慮した、ファーマーズプライス(農家が希望する価格)で作物を買い取ることを考えました。ここまでが、ソーシャルコンセプトです。

 では、農家が希望する価格で作物を買い取るにはどうすればいいのか、というのがビジネスモデルです。

 ビジネスモデルを考える際には、絶対に制約条件が出てきます。AMOMAの場合で言えば、できるだけ栽培コストがかからない作物にすることや、マーケットプライスよりも高値(年によっては市場価格の7~14倍)で買い取ることになるので付加価値の高い商品を作ること、この事業を行なうリンレイ村にある260世帯すべてと取引ができるサイズの市場規模があることが制約条件でした。これらを実現する商品やサービスを探して、ビジネスモデルを作ったのです。

 それが、農薬も肥料も使わずに育てられ、しかも付加価値の高い、授乳期のお母さん専用のメディカルハーブの事業です。日本では年間約90万人の赤ちゃんが生まれるのですが、6割ほどのお母さんは母乳が出にくい。そうしたお母さんたちに向けた商品を作れば、マーケットサイズは十分にあります。産婦人科病院などを通して認知活動を行なおうと考えました。

 制約条件を満たすビジネスモデルは色々と考えられます。授乳期のお母さんをターゲットにした事業はうまくいっていますが、もしうまくいかなければ、別のターゲットを考えればいいだけです。ソーシャルコンセプトと制約条件さえ固まっていれば、ビジネスモデルはいくらでも考えられます。

 

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著者紹介

田口一成(たぐち・かずなり)

〔株〕ボーダレス・ジャパン代表取締役社長

1980年、福岡県生まれ。早稲田大学在学中の19歳のとき、食べ物がなくて栄養失調になっているアフリカの子供の映像をテレビで観て衝撃を受け、「貧困で苦しんでいる人を助ける仕事をしよう。これなら、自分の人生をかける価値がある」と決意。その後、米国ワシントン大学への1年間留学を経て、2004年、早稲田大学を卒業。同年、〔株〕ミスミに入社。2006年、〔有〕ボーダレス・ジャパンを創業。2007年、〔株〕ボーダレス・ジャパン代表取締役社長に就任。

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