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日本企業がイノベーションで苦戦しているのは、リサーチ法を変えないからだ

2020年05月15日 公開

佐々木康裕(Takramディレクター&ビジネスデザイナー)

 

ステップ2 情報を広く深く集める

問いを定義したら、それに沿って情報を集めます情報収集の際に重要なのは、業界一般の人の知識レベル(情報の広さと深さ)の枠を早めに把握した上で、その枠を超えるような情報を収集することです。業界一般の人が国内事情に精通しておりヨーロッパ地域の情報の希少性が高いとなれば、情報探索の地理的スコープを広げます。

また、消費者動向に皆の目が向いているときは、表面的な売れ筋の情報ではなく、その背後にある消費者の価値観の変化に着目したリサーチをしてみます。簡単に手に入る情報には、それほど価値はなく「自分にしか知らない情報」をいかに探し当てるかがポイントになります。

 

そのときに、一次情報に当たることは不可欠です。

「こういうことを誰かが言っている」「ネットでこういう説がある」と第三者の言葉で語るのではなく、情報源を探って、その情報が正しいのかどうかを見極めなくてはなりません。

ある企業が急成長しているという情報を得たら、自分で企業の開示情報を見て財務諸表を読み込んだり、その企業の内部を知っている知り合いに聞いてみるなどして、実際にはどうなのかを調べます。これはジャーナリスト的な作業になりますが、真実を得るには欠かせないプロセスです。

また、自らフィールドに出て、身体感覚を使いながらリサーチすることもできます。

 

パトリシア・ムーアという老年学分野の学者がいます。

彼女は今から40年ほど前、工業デザイナーとして高齢者向けのプロジェクトを請け負うことになりました。

彼女はそのとき、若干26歳。世の中の高齢者が何を考え、何を感じているのか分からないので、高齢者になって調査してみるという方法を思いつきます。

ハリウッドで特殊メイクを学んでいた知り合いに頼んで毎朝、高齢者と見間違えられるようにメイクをしてもらいました。メガネをしているのは、視力を下げるため。手袋をしているのは、手の器用さをなくすため。そして、腰を曲げた状態でコルセットをして、重りをつけて、杖をついて歩いてみました。

その姿で生活をすると、バスのステップに上がろうにも膝が上がらず、店のドアは重たくて開けられず、ビンの蓋を開けようにも回せず、さまざまなことができないのだと分かりました。彼女は3年もの間、高齢者の姿で生活をしてアメリカとカナダを旅して回り、その体験を基にバリアフリーデザインを提唱しています。

 

私は大勢のデータを集めるより、限られた数人からの話や行動を深く掘り下げるデザインリサーチの手法を駆使しながら情報を集めています。インタビューしたい人の家に行き、1時間ぐらいかけて話を聞くこともあります。

 

ステップ3 情報を整理する

問いを定義して、情報を広く深く集めたら、集まった情報を整理する作業に移ります。

ここで、「Aさんが話していたことの要点は三つです」「Bさんは大きく2つに分かれます」「Cさんは……」と、それぞれの話をまとめるだけでは情報を整理したことにはなりません。

それぞれの話から共通点を導き出したり、あるいはCさんしか言っていなくても重要なポイントを拾い上げたりして、「こういう切り口が面白いのではないか」という仮説を構築していきます。

デザインスクールでは、デザインリサーチをした後にどのような情報を得たのかをそれぞれポストイットに書き込んで、ボードに貼ります。この段階では集まった情報はランダムで、まったく統一されていません。こういう状態を「messy(ゴチャゴチャな・散らかった)」といいます。

MECE(モレなく、ダブりなく)でスッキリと整理されているのではなく、むしろゴチャゴチャにしてから共通点や法則を見いだして、情報を構造化していきます。

 

ステップ4  ストーリー化

情報を整理したら、ユーザがあるゴールに至るまでのプロセスを分かりやすくストーリーにします。

例えば、空港習熟度という軸を見つけて分類したら、空港ビギナーのAさんが空港を訪れてから飛行機に乗るまでの過ごし方についてストーリーにします。

 

このストーリー化は、イノベーションを具現化する際の「骨格」となります。また、ユーザの行動や感情、体験品質を念頭に置きながら議論ができるという副次作用も持ちます。

アイデアを具現化するにはそういった細かい「to do」を1個1個つぶしていく作業が不可欠です。そのための発射台になるのがストーリー化だと言えるのです。

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