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部下の話を聞くだけで終わり?…「コーチング」の一大ブームが招いた4つの誤解

2020年05月13日 公開
2023年02月21日 更新

田近秀敏(〔株〕リーダーシップチーム・コンサルティング代表取締役)

 

答えを「引き出す」よりも「一緒に作る」イメージで

ただし、質問が有効ではない相手もいます。

私はこれまで様々な企業研修の場で、「質問だけして、答えを言ってはいけないんですよね」と何度も聞かれました。これが三つ目の誤解です。

ゴルフに初めて挑戦する人に、「どうグリップを握れば球を飛ばせると思う?」と聞いても、わかるはずがありません。最初は、当然、答えを教えたほうがいいのです。

このような「基本行動レベル」の部下、つまり、新入社員やキャリアの浅い社員、その業務にまだ慣れない社員などに対しては、コーチングではなく、ティーチングとトレーニングが必要です。最初は手取り足取り指導し、OJTに入ってからも傍についてフォローする。そうすることで知識と経験が積み上がり、「応用行動レベル」に達します。

この段階から、コーチングを少しずつ取り入れていきましょう。教えつつ、必要に応じて質問し、何をすべきか自分で考えることに慣れてもらいます。

さらに成長して「習熟行動レベル」になれば、コーチングのみでOK。部下から教えてもらうことも増えてくるでしょう。

誤解の四つ目は、「答えは相手の中にあるから、質問していれば必ず引き出せる」というものです。

このフレーズはコーチング関係の書籍にもよく登場しますが、これまで約1,500人の方々をコーチングした経験から言うと、最初から答えを持っていた人はほとんどいません。相手の中にある答えを引き出すというより、対話の中で「答えを一緒に作る」というイメージのほうが正確に近いです。

 

コーチングの基盤は肯定的な人間観

以上のようなコーチングのアプローチは、いわゆる「飴とムチ」で人を動かす方式とはまったく異なります。「○○すれば褒美を与える」「○○しないと罰を加える」ではなく、本人の価値観に沿う魅力的な目標と責任を与えることで、モチベーションを喚起するのです。

この考え方は、コーチングの人間観に基づいています。それは、人間には自己実現の意欲が本来的に備わっている、価値ある目標さえ持てば自分で動機づけができる、他者への貢献意欲も持っている、ということです。

「人間に失敗はない」という考え方も重要です。一般的に失敗とされているものは、「この方法ではうまくいかない」という有益な情報を得るということです。この情報を得てこそ、別の方法にトライできます。何をどう変えればいいかのヒントも得られます。

世の中では、部下が失敗すれば、怒りを示したり責めたりする上司が多数派でしょう。しかしコーチングでは、「ここから君は何を学んだ?」「この経験をどう活かせる?」「次はどう対処する?」と問いかけます。これにより、部下の資質が大きく開花していきます。

「人は誰しも素晴らしい資質を持っている」という思想もまた、コーチングの根幹を成しています。

公園に落ちているドングリは、カシなど、大きな木の実です。あの小さなドングリの中には、大木に育っていくためのすべての資源が詰まっているのです。人間も同じで、どんなに小さく頼りなく見えても、その内面には膨大な可能性がある。それを顕在化させるのが、「未来に向かって力づける」というコーチングのアプローチです。

単にテクニックのみに流れるのではなく、人間という生き物の素晴らしさを信頼する姿勢を常に持ってください。

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3段階の「承認」が信頼関係を築く >

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