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反発の声もあった「社員を個人事業主に」 それでも改革を進めたタニタ社長の”真意”

2020年05月21日 公開
2023年02月21日 更新

谷田千里(タニタ代表取締役社長)

 

24人がチャレンジ。その成果は?

――こうして、「日本活性化プロジェクト」は始まった。タニタから引き続き仕事は得られるとはいえ、個人事業主は会社員と比べて不安定。あえてリスクを取る人は少ないと思われた。

谷田「もちろん反発の声もありました。最も多かったのは、『本当は人員整理をしたいだけではないか?』というものです。しかし、クビを切りたいだけならばこんな面倒なことはしません」

――社長の意図に賛同し、初年度の8人を皮切りに、4年目となる今年までに累計24人の社員が個人事業主に転じた。年齢も20代から60代まで、幅広い。参加者は、タニタとつながりを持ちながら個人事業主になるメリットを感じているという。

 

個人事業主の存在が職場環境にも好影響

――もちろん、課題や問題はある。その一つが、中間管理職の仕事が増えたことだ。個人事業主に発注するためには、仕事の範囲をきちんと取り決める必要がある。

「基本業務」と「追加業務」に分けて、追加業務は追加報酬を払う決まりだが、その判断は難しい。

また、出退勤が自由で、仕事の範囲が決められている個人事業主と、勤務時間が決まっていて、仕事の範囲があいまいな会社員。この両者が、同じ部署で一緒に仕事をするとなると、心のすれ違いが起こることもある。

谷田「今後、多様な人が働けるダイバーシティな環境を作っていくためには、これらの課題は避けては通れないことだと思います。それぞれの仕事の範囲を明確に決めて、コスト感覚を持って依頼しなければ、勤務時間や勤務体系が異なる人たちが働くことはできません。

社員と個人事業主が一緒に働けるような環境でなければ、国籍の違う人が一緒に働くこともできないと思います」

――多様な人が働ける環境を整えるために、同社では、部長クラスの業務発注者が仕事の発注や報酬の決め方について話し合う「評価者会」を始めた。

日本活性化プロジェクトが、働きやすい環境づくりを進めるきっかけになっているわけだ。3年間プロジェクトを進めたことで、谷田氏はこの取り組みが働き方改革のソリューションの一つになると確信したという。

谷田「働く人の能力アップや生産性向上が図れるだけでなく、定年がなくなるので、シニアの雇用問題も解決します。繰り返しになりますが、残業削減一辺倒の議論では、日本はダメになります。

働き手が主体性を持ち、自身の能力を高めながら生き生きと働き、その結果として企業、そして日本が活性化する。これこそが働き方改革が真に目指すべき方向だと思います。

これを実現していくうえで、社員と雇用関係を結ぶことが、会社だけでなく従業員にとっても本当に最善なのか、経営者は頭を柔らかくして考えるべきではないでしょうか」

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