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MSOL「プロジェクトマネジメントの実行を支援し、旧態依然とした組織を変える」

2020年08月07日 公開
2020年08月10日 更新

【経営トップに聞く 第34回】高橋信也(MSOL社長)

高橋信也

日本の大企業にとって欠かせない存在を目指す

――起業の経緯について教えてください。

【高橋】父親が会社経営をしていたこともあって、既に小学校の卒業文集には「将来は会社を創りたい」と書いていました。

 大学卒業後はコンサルタントになって、顧客の大企業の取締役会に出席し、偉そうなことを言っていました(笑)。理屈では誰にも負ける気がしませんでしたね。コカ・コーラウエストジャパン〔株〕(現・コカ・コーラ ボトラーズジャパン〔株〕)の社長を務めた末吉紀雄さんにも可愛がっていただきました。

 でも、コンサルタントだとできないこともあるので、事業会社で働きたいと思い、30歳のとき、〔株〕ソニーグローバルソリューションズに転職しました。ソニーグループのシステム会社です。そこで最年少のプロジェクトマネージャーになったのですが、様々な抵抗を受けましたし、自分が絶対に正しいと思うことでも伝わらないというもどかしさも感じました。大企業の内部でプロジェクトを動かす難しさを実感したのです。これは、多少の差はあれ、多くの日本の大企業に共通することでしょう。大企業というものの生態を実体験したことが、PMに着目するきっかけになりましたし、今に活きています。

 結局、独立したのは2005年、32歳のときですが、それは、サラリーマンに向いていないとつくづく思ったからです(笑)。

――起業後、どのように事業を拡大してきたのですか? 営業活動をした?

【高橋】私は、営業はできません(笑)。コンサルティングと実際に働いた経験とで、大企業のことを熟知していますから、大企業の部課長以上の方と話をしていると、抱えている悩みがわかるんです。それで、「こうしたらいいんじゃないですか」と提案すると、「じゃあ、頼みますよ」と言われる。おかげさまで、創業以来、仕事には恵まれています。

 ですから、初めは「高橋さんの会社」ということで仕事を受注していましたね。

――その後、社員を増やしてきているわけですが、社員にはどういう人が多いのでしょうか? コンサルタント出身が多い?

【高橋】いえ、コンサルタント出身はほとんどいません。創業から5年ほどはコンサルタント出身者を何人も採用しましたが、コンサル畑ではないほうが、当社の事業に合うことがわかりました。

 プロジェクトの成功のためには、理屈だけではなく、人間の感情も理解できなければなりません。組織のことが肌感覚でわかっていることが重要なので、事業会社やSIerなどでプロジェクトを担当し、苦労した経験がある人たちを多く採用しています。

――新卒採用もしているということですが、その場合は、どこを見て採用しているのでしょう?

【高橋】新卒採用は今年で9期生になりますが、これまでに採用した社員が、入社後、どのように成長したかを見て、採用基準を作っています。インターンも4年前からしていますが、それよりも重視しているのが面接です。必ず聞いているのは「失敗から何を学んだか」。家庭のトラブルや、大学のサークルで部長を務めていたけれども、うまくいかなかった経験などを経て、成長した人を採用しています。悶々としている人のほうが伸びしろがありますね。

――新卒者の育成は?

【高橋】まずはプロジェクトの現場で議事録作成などの管理業務をしてもらいます。色々なプロジェクトを経験してもらい、視野を広げて、プロジェクトというものの全体像を知ってもらうと、2~3年目にはプロジェクトの課題やリスクがわかるようになり、お客様への提案ができるようになります。

――上場しようと思った理由は?

【高橋】良い人財を採用するためです。当社の採用の内定率は、10年以上、6%程度で変わっていません。ですから、社員を増やすためには、採用への応募者を増やさなければならないんです。そのためには、会社の信用を高めることが重要だと気づきました。そこで、5年ほど前に、上場することを考えました。「高橋さんの会社」から「公の会社」になることも、さらなる成長やお客様のために、必要だと思ったのです。

――社員の評価は、どのようにしているのですか?

【高橋】私自身がコンサルティング会社に勤めていたこともあって、完全な成果主義です。個人のパフォーマンスで年俸が変わり、年下が上司になることも多々あります。

 評価はドライなのですが、同時に、和風なところもあります。例えば、オンライン飲み会にも手当てが出ますし、クラブ活動も支援しています。お客様からは、日本企業のメンタリティもわかっている企業だと思っていただけているのではないでしょうか。

――社員の定着率も良い?

【高橋】業界の中では、離職率は低いほうではないでしょうか。

 ただ、辞めたいという社員がいたら、引き留めることはしません。よく「自律的キャリア形成」ということを言っているのですが、会社は個人のキャリア形成のための場だと考えているからです。特に当社のようなプロフェッショナル集団は、そうあるべきだと思います。

 新卒採用の社員にも、入社初日に、「会社組織というのは、稼いだり、成長したり、個人のパフォーマンスを発揮したりするための手段なのだから、道が変わったと思えば辞めればいい」と言っています。

――最後に、今後の展望について教えてください。

【高橋】一つは、日本の大企業にとって欠かせない存在になること。大企業には変革が必要ですが、内部からでは、なかなか変革は推進できません。変革のために外資系コンサルティング会社に頼る日本企業も多いですが、日本企業だったら、日本企業の力を借りて、変革を実現するべきではないでしょうか。そうした存在に、当社がなりたい。今年2月に経団連に入ったのも、それが目的です。

 また、日本国政府に対するPMの支援も準備しているところです。これは、当社のビジネスとしてというよりも、日本の社会課題の解決のためです。旧態依然とした組織は変革しなければなりませんし、官僚のPMが非効率だと税金のムダ使いにもなります。日本社会のために尽力する会社に育て上げたいと考えています。

《写真撮影:まるやゆういち》

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