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カカオジャパン「『勤勉』『誠実』を貫いたことが、『ピッコマ』を成功へと導いた」

2020年09月25日 公開
2020年09月25日 更新

【経営トップに聞く 第37回】金在龍(カカオジャパン社長)

「待てば¥0」は、作品の価値を消費者に伝えるため

――2016年7月までに1万人を達成できる自信はあったのですか?

【金】どんなに成功しているサービスでも立ち上げの頃は苦労していると思いますが、先ほどもお話ししたように、「ピッコマ」もサービス開始から1カ月間は非常に低調でした。確か5月15日頃だったと思いますが、1日の売上がiOSで200円、Google Playで0円の、合わせて200円しかない日もありました。その200円も、私が払ったお金だったような気がします(笑)。多い日でも数千円でした。

 低調だった原因は、サービス開始の1年前から出版社に営業をしていたものの、「待てば¥0」という新しいビジネスモデルに抵抗感があって、なかなか作品を提供していただけなかったことです。

 サービス開始2カ月目に〔株〕コルクから『テンプリズム』と『クロカン』(三田紀房)を、さらに3カ月目の7月11日に〔株〕日本文芸社から、当時ヒットしていた『中卒労働者から始める高校生活』(佐々木ミノル)を含む約30作品を、「待てば¥0」で提供していただけたことで、7月中に1万人を達成できました。

 日本文芸社の役員の方との商談に向かうときは、「絶対にできる」と社員に宣言してオフィスを出ました。でも、その役員の方は恐いと聞いていましたし、自信はなかったんです。道中、ずっと、相手に話すことを頭の中で繰り返していましたから、同行した社員に話しかけられても耳に入りませんでした。ソファに座ると、普段は全然かかない汗が止まりませんでした。そんな私を見て可哀想に思ったのか、優しく対応していただき、作品を提供していただけることになりました。「人間は、切実に思うと、ドアが開けられる」と思いました。

――社長自ら出版社と交渉したのですね。

【金】このビジネスは作品がなければできません。ですから、作品を提供していただくための営業活動は自分でしました。すると、交渉の状況がわかりますし、信頼関係も築けます。

 米国なら、商談が成立するかどうかは報奨金などの金銭的な条件によるのでしょうが、日本では、商談で最も重要なのは信頼関係です。しかも、その信頼関係は長く続く。これが、日本のビジネスの良いところだと思います。

――そもそも、「ピッコマ」はどのような経緯で始まったのでしょうか?

【金】私は2006年からNHN Japan〔株〕(現・LINE〔株〕)で働いていたのですが、カカオの創業者に、カカオジャパンの社長にならないかと誘われました。NHNの創業者でもある人です。そのとき、「カカオジャパンはこれから何をするんですか?」と聞いたら、「何をしたらいいと思う?」と聞き返されました(笑)。

 そこで、コンテンツに興味がありましたし、マンガを含めた書籍はスマホ対応が遅れていると感じていたので、「ピッコマ」を始めることにしたのです。

――当時のマンガアプリ市場は、どんな状況だったのでしょう?

【金】大手IT企業が運営する「LINEマンガ」や「マンガボックス」(〔株〕ディー・エヌ・エー)、大手出版社が運営する「少年ジャンプ+」(〔株〕集英社)や「マンガワン」(〔株〕小学館)など、マンガアプリが一気に増えたのが2013~14年でした。「Renta!」(〔株〕パピレス)はもっと早くて、2007年にサービスを開始しています。

――「ピッコマ」は後発だったわけですね。なぜ、「待てば¥0」という仕組みを考えたのですか?

【金】まず、明確にお伝えしておきたいのは、当社に集まっている人たちにはクリエイティブ系が多く、クリエイティブに対する敬意を持っているということです。例えば、今のビジネス戦略室長も元マンガ編集者です。ですから、マンガの価値を消費者に伝えて売るためにはどうすればいいのかを、真剣に考えています。「待てば¥0」は、決してマンガを無料で配ることが目的ではありません。

 ただ、今はマンガが自然に売れる時代ではなくなりました。私自身もそうでしたが、昔は娯楽が少なかったので、マンガ雑誌の発売日を心待ちにしていた人も多かった。しかし今は、YouTubeやスマホゲームなど、マンガと競合する娯楽が増えました。「だからマンガが売れなくなった」と市場の縮小を嘆いている人は多くいます。しかし、マンガが売れるようにするための行動を起こしている人は少ないような気がしていました。

 そこで、新しい形でマンガの市場を作るために考えたのが、「待てば¥0」というビジネスモデルです。

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